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隠された記憶のyokoのレビュー・感想・評価

隠された記憶(2005年製作の映画)
5.0
衝撃のラストシーンとやらは気にしなくて良い。あれをそのまま解釈しちゃうと普通のミステリーになりハネケ節でも何でも無くなってしまう。私の率直な感想を言えば息子たちは親同士のつながり、復讐関係なく元々の知り合い。そして同性愛者。事件とこの描写は何の因果関係もないぜ!的なファニーゲームと同じ着想。

プールのシーンが一番謎で普通に泳いでいるところを撮影すればいいのに真上からわざわざターンをしているところを撮影している。サッカーでも柔道でもいいのに水泳というのもポイントが高い。ターンするということは体が一回転する。わざわざ股間を見せつけるような上からのショットに少年愛も一つのテーマではないかと感じる。

子供の部屋で一番目立つものはジダンとエミネムのポスターでフランスの中でアルジェリア人マイノリティとしてのジダン、黒人社会でのマイノリティ白人エミネムへのシンパシー。少年はマイノリティー側。

もし子供たちが犯人なら綺麗な目をして「やましさ」を主人公に突きつけるのに説得力が欠ける。あのアルジェリア人の子供なら盗撮などせず直接文句を言いにくるだろう。母の不倫でというなら父をターゲットにしすぎてるし、母の映像を送ればいいだけ。不貞腐れて友達の家に行くメンタリティならあんな回りくどいことはしないだろう。

長回しのポイントは他の場面もビデオの映像なのか映画のショットなのかわからなくなってくるところ。定点なのになぜかぶれている。記憶のぶれ。イメージのぶれを暴く。盗撮映像は2時間以上もある、と言っていた。嫌がらせなら別に2時間じゃなくて良い。2時間以上ってなんの長さかわかるよね。映画の長さ。ちなみにこの映画は1時間59分。わざと2時間以内に収めた気がするなw。ロストハイウェイならまだいいが、このリアルな作風での実は監督が犯人でした!もう一人の自分が犯人でした!犯人は見てるあなたです!は許されないような気がする。まあ監督は明言はしてないけどね。でも「明言はしない答えはそれぞれで考えてください」的ないかにもインテリの言いそうな言い回しも逃げだと思うね。まあビデオの送り主はメタでしょう。

いかにもセットのような本棚、そしてテレビの収録の背景は絵の本棚w知識の虚しさ、人格と知識は別という皮肉。

ハネケでわからなくなったらカフカを読め!たまたま今回はカフカの判決を読んでいて何となくの類似点を感じた。ざっくりとしたストーリーはいわゆる友達想い、父親想いの好青年が不条理に父親に死を宣告される話として解説されることが多いが実態は、本当は好きでもない友達や父親を体裁上慮っている主人公の自己欺瞞を父親に暴かれる話。やましさを隠して成功者として振る舞うな、自己欺瞞をやめろという鉄槌。ロシアに行ったけど成功してない友だちと主人公。それを今作の主人公に当てはめられると思う。ビデオテープは自己欺瞞への鉄槌。カフカはよく不条理とか突然何かがみたいな解説をされることが多い気がするが、実際はその状況、世界に主人公が気づいてないだけ。理ことわりに適応してないだけ。なので突然変わったように感じているだけ。カフカ、ハネケ本人は「不条理にしてやるぜイヒヒヒヒ!」とは実は思ってなくてただ理を描いてるだけなんじゃないかなとも感じる。

粗として感じた部分は
黒人、低階層に理解のない主人公という描写にしたいのはわかるが自転車のシーンは悪手で歩行者とチャリならチャリが悪く、そもそも逆走してるので言いがかりをつける主人公みたいにするのは無理がある。まあフランスの道交法はわからないが。20年前ならともかく歩行者優先が浸透してきた今の状況に照らすと単純にチャリが悪いだけに見える。

ロストハイウェイ的な解釈なら、あの時のシコリを抱えたアルジェリア人の和解したい?本心を知りたい、という想念がビデオとして物質化、それが主人公のもとに届く。
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