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しとやかな獣のucandoitのレビュー・感想・評価

しとやかな獣(1962年製作の映画)
5.0
1962年 新藤兼人脚本 川島雄三監督

面白かった。
万引き家族か、パラサイトか。
60年前の作品ですがエッジが効いたブラック・コメディ。
乾き切っています。
至れり尽くせりのカメラワークと家族のシュールな会話はとてもポップ。
舞台はほぼアパートの一室。

入れ替わり立ち替わり人物は代わるがいつも居る夫妻。
演劇的です。

元海軍中佐の父親(伊藤雄之助)一家はある意味戦争の被害者で戦後どん底の暮らしをしていたが、今はたかり屋一家としてシラーっと生きている。

息子の実は芸能プロで大金を使い込む。妹(浜田ゆう子;葉山良二の奥さんになる人でお色気系女優みたいだ)は売れっ子作家吉沢(山茶花究)の二号さん。
一家でこの作家にタカっている。

夕焼けの部屋で狂った様に踊る兄と妹。曲がいつしかロックンロールから能に。その横で何事もない様に蕎麦を啜る両親。奥さん(山岡久乃)もなかなかです。最後の謎めいた表情といえ、私的にはMVPを差し上げたい。

物語はプロダクションの社長(高松英郎)と外人のフリをする変な歌手(小沢昭一)が息子の横領を詰問しにこの家を訪れるところから始まります。
何故か能の音楽が流れる中、夫妻は黙々と金目のものを隠し、みすぼらしい身なりの着替えて社長達を待つ。能の音は前作を通し効果音として使われます。

一緒に付いて来るが一言も発しない会計係の謎の美女幸枝が若尾文子。
冒頭でがっつり掴まれました。


ネタバレ備忘録

踊り疲れた兄と妹が眠りに落ちると先程の会計係若尾文子がドアを叩く。
しとやかそうな先程とは変わって煙草スパー。
息子に別れを切り出す若尾、嫌がる息子。
帰ってきて外で聞き耳を立てる母と目を覚ました妹。

実は実に300万円貢がせていた幸枝は子持ちの寡婦で旅館を建てたところ。

怒る実に誘惑してカネをせしめたが心も身体も尽くした。
パンドラの箱に鍵を掛け辞表を出して闘う。
実ともケリをつけに来た。

能舞台の様に長い階段を登る幸枝の頭は旅館の運営で占められている。夢を見ないでぐっすり寝てやろう。雪の降る朝竹箒で表を掃く。もう誰とも諍いはしない。静かで平和な生活。
社長が来て二人と話す。彼も幸枝と関係があった。職安から紹介されて来た見窄らしい姿。税理士とも寝ていた。
黙り込む社長。声無き声。未練。女の弱さをいつまでも利用できると思ってはいけない。
ドアの窓。
ごきげんよう。

男達からせしめたカネで目黒駅近くに12室の旅館を建てた幸枝。
寝転がる実を取り囲む一家の絵は印象的。
しっかりした女なので警察は大丈夫よ、と笑う母。今度はテーブルの下からのショット。色々な角度から家族を追うカメラ。
あの方を敵に回すのは怖いですよ、とどこまでも冷静な母。

実の飲み代を請求に来る銀座のママ(ミヤコ蝶々)。余計なシーン。

暗い部屋でラジオを聴く老夫婦。と言っても49歳ですw。
外国の金持ちは蝋燭で食事。明かりを恐れる現代人。明るくなりすぎる照明に個性が無くなった。
旅館の開店祝いに酔っ払って乱入した実。
文句を言いに来た幸枝。

税務署職員の神谷がクビになった。逮捕状。
社長が血相を変えて飛び込んでくる。
今度は下からのショット。
会社の件で事件になった。
税金を神谷に渡したがそれが幸枝に戻った。
税務署が入る前に帳簿を見てくれと懇願する社長。
助けてくれ。
なる様にしかならないと冷たい幸枝。
今度は幸枝に焦点。背後に夫妻と実。

外からのショットではベランダの柵が留置所に見える。項垂れる社長。
みんな大変だがスキャンダルで旅館は繁盛するだろう。
神谷が自殺しない限り大丈夫。

幸枝が帰ったあと。
社長が使い込んだ100万の罪を30万で被ってくれないか。一家で60万に吊り上げる。
これも人助け。
靴を間違えて帰る社長。
どうやら雇われ社長です。

善良過ぎた昔の自分を悔いる父親。
長い階段。今度は社長の独白。あの女に手を出さなければ。
幸枝の独白、垣根を築いて過去を忘れる。
急いで真っ黒いカラス達を追っ払う。

税務署職員の神谷(船越英二)が来る。
これから警察に出頭。
幸枝に迷惑を掛けたと伝えてくれ。
自分は幸せだった。
責任が自分が取る。

朝食中にカネの無心をして吉沢に追い出された妹。そう言う事はベッドの中で言うものw。
未練があるかと思ったがルノアールを取りに来た吉沢。贋作と知っていた母。大笑い。

アパートの屋上から投身自殺する神谷、初めて動揺する幸枝。
雨に打たれる傘と鞄。

高原旅行の話。
パトカーのサイレン。
覗き込んで息を呑む妻。
振り返った静かな顔のアップ。
何とも謎めいた表情です。
荒れた空き地と大きな集合住宅。
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