FancyDress

蜘蛛巣城のFancyDressのレビュー・感想・評価

蜘蛛巣城(1957年製作の映画)
5.0
「マクベス」が元ネタなわけだが、黒澤オリジナルの解釈として、マクベスの妻(山田五十鈴)が妊娠するという設定にしているところが、まず、面白い。

しかも、死産することにより、マクベスの妻が狂う描写に説得力が増す仕組みになっている(死産したから狂ったとみることができるわけ)。また、マクベス(三船敏郎)の友人、バンクォー(千秋実)を暗殺する動機付けも増す(シェイクスピアの原作では、マクベスには子供がいないわけで、友人・バンクォーの息子が跡継ぎになっても問題はないわけだが、黒澤バージョンでは、妻が妊娠したことにより、バンクォーとその息子を生かしておくわけにはいかなくなる)。

この妊娠&死産という設定は、シェイクスピアの戯曲にはないわけで、黒澤のこのオリジナル設定は、成功している。

ちなみに、この山田五十鈴が演じた女を、もっとドライにしたキャラクターが、後の黒澤作品「乱」での原田美枝子が演じた女(楓の方)である。

本作は、冒頭とラストに、霧に包まれた中に、蜘蛛巣城の跡と書かれた柱を映す。そこに、“見よ妄執の城の址 魂魄未だ住むごとし それ執心の修羅の道 昔も今もかわりなし 寄せ手と見えしは 風の葦 鬨(とき)の声と聞こえしは 松の風 それ執心の修羅の道 昔も今もかわりなし”と不気味な声で歌われる、地謡(じうたい)が被さる。
つまり、本作は、夢幻能(現実と異世界、過去と現在を行き来しながら、死者などの霊的な存在が生きている人間に魂の救済を求める形で物語が進む。ちなみに、これに対して現在能があり、現在能は、現実の世界で生きてる人間のみが登場し現在形で進行する形式。)の形式を取り入れている。

この蜘蛛巣城跡の柱からはじまる本作は、はじまった時から悲劇の結末が見えている。

実に、閉塞感に満ちた映画であり、後の「乱」の原形的な作品でもあるといってもよいだろう。

さて、本作のラスト、三船演じるマクベスが、無数の弓矢に射たれるわけだが、あの無数の矢が体に突き刺さっていくマクベスの描写は、塚本晋也監督の「鉄男」での、主人公の男の体が鉄に覆われていく描写に似ていると私は見ていて感じたのだが、どうだろうか?

とにかく、本作は、実にダークなマクベスの妻と、その妻に翻弄されていき悲劇的結末を迎えることになる、気の弱い男・マクベスを描いた傑作だといいたい。
FancyDress

FancyDress