ベビーパウダー山崎

ラ・ピラートのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

ラ・ピラート(1984年製作の映画)
3.5
愛情も情熱も一方通行で、その重なり合わない苦しみが、むき出しの感情となりお互いの肉体を傷つける。ふたりのメンヘラ女にひとりの男。ジャック・ドワイヨン映画でよく見る三角形に探偵と少女が混じっているのが「映画」をより複雑にしている。
フィリップ・レオタール演じる探偵、ノワールの住人がドワイヨンの異常な恋愛ドラマに入り込んでしまったような場違い感。この世界の探偵の役割は、好き放題に暴れまくる三人の混乱を死人が一人も出ることなくおさめることで、その依頼は当然のように失敗するのが正しくハードボイルド。
ロール・マルサック演じる背伸びした子どもがしれっと受け入れられているのも奇妙だが、この少女は、すでに死んでいた関係性を蘇らせてしまった「彼女らではどうすることも出来ない苦痛」と「レズビアンのセックスのように終わりなき絶頂」を、一発の銃でケリをつけるため地上に舞い降りた天使、もしくは、ジェーン・バーキンとマルーシュカ・デートメルスが産み落とした幻の娘(擬似親子)。
おそらくドワイヨンの作風は80年代はじめには完成していて、あとはその狭くて濃すぎるドワイヨンワールドに時代と共になにを加え、なにを削っていくかのミニマルな表現。メンヘラ女性と子ども、激しい感情とぶつかり合う肉体。家族は崩壊していて、それでも家族という形態は望んいていて。ホテルか車内か家か、登場人物しか存在していないような世界の果て。