ブタブタ

イントゥ・ザ・ワイルドのブタブタのレビュー・感想・評価

イントゥ・ザ・ワイルド(2007年製作の映画)
4.0
『バーナード嬢曰く。』⑥で原作『荒野へ』
が議題図書となっており本作を思い出した。
クリス・マッカンドレス遭難死については既に有名なので⚠︎ネタバレ注意⚠︎で。
『バーナード嬢曰く。』の『荒野へ』回の一つ手前の回が「なろう小説」について語られており、期せずしてこの二つの回がまるで前後編で一つの話しの様に思えた。
「なろう小説」とは大まかに言うと作者(自分)の分身であるごく普通の少年である主人公が異世界転生して「俺TUEEEE」となる小説。
既にラノベ、ネット小説界隈では1ジャンルを築いている。
現実では非モテで何の取り柄もない主人公(だいたい高校生)が異世界を行くと何故か神からスーパーパワーを与えられ所謂「チート主人公」となって世界を救ったり滅ぼしたり或いはどっちもしなかったりする。
『荒野へ』はノンフィクション小説。
主人公はクリス・マッカンドレスという裕福な家庭に生まれ名門大学を出て羨む様な恵まれた環境にある青年がその全てを投げ捨てて「自分探し」的な旅に出てしまう。
そしてアラスカの荒野の打ち捨てられたバスの中で餓死する。
典型的な白人的価値観の自己確認、アイデンティティの模索やスピリチュアルな旅、インドに旅して人生変わったみたいな、「自分探し」をハードにやり過ぎて失敗したみたいな話しとして片付けるには余りにも壮絶かつ悲惨なお話し。
だからこそショーン・ペンが衝撃を受け映画化しこんなにも人々に読まれているのだと思う。
クリスは自らをアレグザンダー・スーパートランプという厨二病みたいな偽名を名乗り旅をしていた。
そして死の間際になってクリス・マッカンドレスという本名で救助を求めた、というエピソードが『バーナード嬢曰く。』で紹介されている。
「なろう小説」もここでは無い何処かを「異世界」に求め旅立つ主人公を描いてる。
アレグザンダー・スーパートランプというファンタジー小説のキャラクターの様な名前。
ある日何処からかやって来て去って行く青年。
旅の途中でクリスが出会った人々から見て彼はまるで「なろう小説」の主人公だ。
それくらいクリスという人はなんて言うかファンタジーの中のキャラクターに見える。
誰もがみんな彼を好きになり、そして僅かな時間を共に過ごして彼は何処かに去って行く。
まるで何かのお話しの主人公の様に。
旅の途中で出会う人達との交流も現実社会では得られない「その時だけの夢みたいな幸福」感に満ちていて誰もがクリスの事を愛しクリスも人々を愛し、思い出を残して去って行く。
まるで世界を救う旅を続ける「チート主人公」の様に。
クリスを弟の様に思う農場主、クリスに恋する少女、「俺の息子にならないか」とクリスを引き止める老人、クリスが大学を出て一流企業にでも就職していたら一生会う事はない人々だったと思う。
それ故に不運が重なり最後を迎えたクリスの人生は余りに儚く悲しい。
「自分は幸せだった。ありがとう」と書き残したクリス。
本当の気持ちは本人にしか分からない。
たとえ短くともやりたい事をし濃密な人生を生きたのならそれでもいいと思うけど。
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