Jeffrey

恋の秋のJeffreyのレビュー・感想・評価

恋の秋(1998年製作の映画)
5.0
「恋の秋」


〜最初に一言、秋の日は釣瓶落とし。秋風、秋澄む四季物語完結編にして最高傑作、2人の女優が魅せる可愛い中高年の恋愛映画、超絶級に好きな1本だ〜

冒頭、南フランスの小さな町、サン・ポール・トロワ・シャトー。本屋を経営する主婦イザベル、ローヌ渓谷、ぶどう酒造り、新聞の結婚交際広告欄、マガリの結婚探し、原発、丘、風光明媚な土地。今、ロメールの最高傑作が写し出される…本作は監督、脚本を務めた名匠エリック・ロメールが「春のソナタ」(89)「冬物語」(91)「夏物語」(96)に続く、四季の物語シリーズの完結作となる。この度、廃盤のBDを購入して鑑賞したが傑作である。秋の穏やかな野趣の40代男女の恋模様を描き、98年ヴェネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した一本である。

本作は97年の9月から10月にかけて、ローヌ河流域南部のワイン産地として知られる地域で撮影されたそうだ。撮影当時、ロメールは77歳である。彼が初めて40代の女性の恋を題材にした作品として話題にもなっている。主演はともにロメールと縁の深い金獅子賞を受賞した「緑の光線」のマリー・リヴィエールと「美しき結婚」のベアトリス・ロマンが主演だ。

さて、物語はサン= ポール=トロワ=シャトーに住むイザベルは結婚間近の娘と娘の婚約者に、結婚披露宴には友人マガリの造っているワインを出したいと提案する。前の夫に先立たれ、2人の子供も独立したため独身の身のマガリは、畑でブドウ栽培に専念をしている。イザベルは密かに彼女の新しい伴侶を本人に代わって見つけようと考えて、地元新聞の結婚相手募集広告を利用する。一方マガリの息子の新しい恋人ロジーヌは、元恋人の哲学教師エチエンヌと付き合わせようとする。イザベルはマガリの経歴を自分の経歴と偽り、広告に応じたジェラルドと三度デートした後、自分の企みを打ち明け、彼の娘の結婚式に招待するが、マガリはイザベルの企みについてまだ何も知らないのだ…。

本作は冒頭に、小鳥のさえずりが聞こえる閑静な住宅街のカット割が重なる。泉、岩壁、屏、人、木、建物とあらゆるものが写し出されるファースト・ショットで始まる。カットは変わり、家の中庭でワインを飲みながら会話をしている4人の男女が映る。主婦であり、本屋を経営しているイザベルは親友のマガリの結婚相手を探してい事を話す。母親(イザベル)は娘の結婚披露宴に彼女(マガリ)を連れて行きたがっているのだが、2年前にぶどう摘みで彼女と喧嘩してしまい娘は彼女のことを毛嫌いしてる。カットは変わり、小さな街の風景が捉えられる(橋を渡る車、河など)。

続いて、赤い車に乗ってマガリの畑にやってきたイザベル。彼女は挨拶をしてスキンシップする。そこにはロジーヌと言う女子大生がいる。彼女はマガリの息子のガールフレンドらしい。彼女は自転車に乗りその場を去っていく。マガリはイザベルに彼女の事どう思う、息子の新しい恋人なのよと聞く。そして2人は草むらを歩き会話する。マガリの白い車に乗り2人は畑へと行く。カットは変わり、2人が畑の中を歩きながら会話をする。カメラは葡萄をクローズアップする。

風に靡く畑の葉、雑草の生えてないきれいな土、風が今にもイザベルのかぶっている麦わら帽子を飛ばそうとする。迫力のマガリのくせっ毛がウェーブする。カメラは風光明媚な大自然を捉える。するとイザベルの麦わら帽子がやっぱり風に飛ばされる。いくつかの野生の花の説明をするマガリ。カメラはその手元を幾たびも寄りに撮る。風の音が強調される。2人は車に乗って畑から帰る。イザベルが崖の方へと歩き、刺のついたツルに服が絡まり、マガリが助ける。

続いて、ロジーヌが元恋人の哲学者の教師エチエンヌに抱擁される場面に変わる。彼女はそれを嫌がる。どうやらこの2人は曖昧な関係にいるようだ。エチエンヌは結婚するなら年下の女性がいいと彼女に言う。2人は会話をし続ける。2人は友情を保てるように頑張っているらしい。だが、結局口喧嘩して彼女は自転車に乗ってその場を立ち去る。カメラはその場を去るロジーヌとゆっくりと歩くエチエンヌを捉える。

続いて、イザベルが経営する本屋の中が映される。彼女は少しばかり外に出てくるとマリーと言うスタッフに言う。カットは変わり、彼女が車に乗り大、自然の空き地へとやってくる。そこにはマガリも車でやってくる。2人はスキンシップし、手を繋ぎ歩く。マガリは大きなバケツにたくさん入った葡萄を入れて持ってきた。今年はいい収穫だったそうで重労働だったと言う。 2人はマガリの自宅へと入る。彼女は1年前に娘が家から出て行き(親離れ)息子のレオが心の空白を埋める存在だったが、最近は離れる一方だとイザベルに伝える。

続いて、2人は会話をしながら食事の用意をする。カットは変わり、テラスで食事をし終えた描写が映されて、イザベルが新聞記事にある結婚募集一覧の話をマガリに持ちかける。彼女はそんなもの馬鹿か変質者しかいないでしょうと言うが、イザベルは立派な社会人でただ良い人に恵まれない人が応募しているのよと伝える。だが、マガリは微妙な反応する。2人は別れる。

カットは変わり、イザベルが本屋に戻ってくる。手には新聞を持っている。レジに座っているスタッフのマリーと交代する。彼女は新聞を広げカメラはその新聞広告を映す。カットは変わりイザベルと夫が彼女の自宅で会話をしているシークエンスに移り、夕食をとりながら会話をする。続いて、本屋で彼女が新聞の広告欄にマガリを偽って登録表に書いている場面へと変わる。カットはロジーヌとその女友達がテラスでお茶をしている場面へと変わる。そこにレオがやってくる。女友達はここで帰宅する。すると彼女が座っていた席に座るレナ。2人は会話をする。

続いて、マガリの畑へ。葡萄を取るマガリとその仲間たち。そこにロジーヌがカメラを手にし彼女を撮影する。カットは変わり、彼女の自宅の庭のテラスで先ほど撮った写真を見ている。ロジーヌはこれなんていいんじゃないのと自分好みの写真をお勧めする。1枚だけ彼女の元恋人のエチエンヌの写真が出てくる。それを見るマガリ。ロジーヌは元恋人をマガリに紹介するのだ。彼女は私にだって条件はある。結婚はしたいけどと言う。そして2人は会話をする。

続いて、ロジーヌが原風景な道沿いを自転車で走る場面へと変わる。彼女は元恋人のエチエンヌと待ち合わせをしていたようで、彼とスキンシップをし会話をする。彼は君の電話を待っていた、とても会いたかったと言う。ロジーヌはエチエンヌにマガリの写真を見せる。彼は写真じゃわからないと言う。彼女は返事は急がないわと伝える。ロジーヌはレオの母親だと言うと、エチエンヌは驚きながら怒る。

続いて、ロジーヌはレオの部屋へやってくる。そこで彼女は私の母と恋人とあなたの母親が恋愛対象になる可能性があることを言い、彼は取り乱す。 2人の会話が続く。カットは変わり本屋へ。新聞広告の事柄について何通か手紙がイザベルの下へと届いている。彼女は相手側に電話をする。そして月曜日にランチをする約束をする。カットは変わり、一瞬街の風景が映り、レストランへと変わる。そこには新聞を広げたハゲ頭のメガネをかけたおじさんが座っている。イザベルもやってくる。2人は挨拶をして席に座る。会話をする。

続いて、2人は自然豊かな公園を散歩する。彼は彼女に夜どうしても会えないかと言うが、息子が家にいるから厳しいと伝える。カットは変わり、マガリとロジーヌが写真を見ながら会話をしている。そこへイザベルがやってくる。ロジーヌとマガリが席を立ち、テーブルに置いてあったマガリの写真をイザベルがこっそり1枚盗む。カットは変わり、イザベルが電話をしている外の場面へと変わる。彼女の娘が店から電話が来ていると伝える。そして新聞広告で出会った男とのデートの描写がなされる。

そして相手の男に私は代理人で、本来違う女性に会ってほしいことを暴露する。彼は驚く。そして彼女は写真を彼に見せる。彼は胸ポケットからメガネを取り出しかける。そして写真を見て目に魅かれると言う。彼女は娘が結婚パーティーをするときに、その会場に来て偶然を装ってマガリと会ってほしいと頼む。彼はしぶしぶ納得するような形でカットが変わる。ロジーヌとエチエンヌが街を歩いていると、偶然駐車場でイザベルと先程の男性が会話しているところに遭遇しそうになり隠れる。カメラはその男が駐車場を歩く場面を捉える。そして車に乗っているイザベルと別れる。

続いて、イザベルの娘の結婚パーティーのシークエンスへと変わる。そこにあの男の人がやってくる。彼は庭にたたずむマガリの側へと接近する。彼がお酒を飲みたそうな振る舞いをすると、彼女の方からお酒を注ぐ?と声をかけてくる。そして2人は会話をし始める。カメラはそれを固定ショットで捉える。ワインの話で盛り上がる2人。そこで席を外すマガリ。今度はロジーヌとエチエンヌに会う。2人はぶどう園とワインの話をする。

そしてマガリはお腹がすいたと良い席をはずす。ロジーヌは案外そっけない態度をとられたわねと元彼に言う。カットはマガリが先程の男性を探している描写へと変わる。男性は邸宅の中に入り、イザベルを見つけ彼女との良い雰囲気になったことを伝える。そして2人が近づき過ぎている場面を偶然見かけてしまったマガリはすぐに扉を閉めてどこかへと消える。カットは変わり、ロジーヌが庭を歩いている。すると、庭の隅っこで椅子に座っているマガリの姿が捉えられる。2人は話をする。

そこへ先程の男性がやってきて2人を見る。ロジーヌは私たちを見ているわよ、きっと話したいんだわとマガリに話をする。照れ臭そうに余計なお世話よと言い返す。男性は一度いなくなり、2人は石垣に座り会話をし続ける。そしてロジーヌはパーティー会場へと戻る。カメラは一人ぼっちになったマガリを捉える。そこへイザベルがやってくる。彼女は帰りたがっていることを言い、ちょうどおんなじ方向で送る人がいるから来てと言い彼女はついていく。そして先程の男性(ジェラルド)と再度改めて挨拶をする。

マガリとジェラルドはパーティー会場から去り、車に乗る。2人は車の中で会話をする。彼女は虫の居所が悪いといい、家まで送らずに途中の駅で降りると言い出す。ジェラルドは駅に向かい、彼女は車から降りて別れる。ホームに1人座る彼女のショット、カットが変わり結婚パーティーの描写へと変わる。そこにはロジーヌとエチエンヌがお酒を飲みながら会話をしている。そしてレオが母親を迎えにやってくるが、ロジーヌが帰ったわよと伝える。

続いて、ロジーヌとエチエンヌが車で帰宅する描写へと変わり、一人ぼっちになっていたマガリがタクシーで目的地を言って送ってもらう描写へと変わり、ジェラルドが1人で車に乗って、来た道を戻る場面へと変わる。そしてマガリはイザベルの所へ舞い戻ってくる。彼女はイザベルに本当のことを言ってと言う。彼女は結婚広告で見つけた男性なのねと言う。イザベルはシラを切るが白状する。そしてマガリは今回の一件の不満をぶちまけるが、イザベルとの喧嘩はしない。そこへジェラルドが舞い戻ってきて2人は再開するのだ。そして物語はいよいよ幕を閉じ始める…とがっつり話すとこんな感じで、四季物語の完結編にして最も好きな1本だ。これはロメールの作品の中でも傑作中の傑作である。

あんな終わり方…堪らない。もう素敵すぎる。ベルイマンの「秋のソナタ」もスコア5にしたがらどうして"秋"関係の作品はこうも魅力的に映るのだろう。小津安二郎の秋日和に始まり、秋刀魚の味、彼岸花、と秋関連の小津さんの作品も大好きである。最高の112分映画だ。この作品は98年東京国際映画祭にも出品されているようだ。今回一気に春夏秋冬全てブルーレイで鑑賞したが、好きな順で言うと秋の恋、冬物語、夏物語、春のソナタと言う順である。といってもこの4作品どれもスコア4越えの俺の中では超高評価である。 点数で言うなら90点越えだ。

この四季物語のすばらしいところは偶然と運の主題が描かれていることだ。因みにこれは俺の勝手な想像だが、冬物語と夏物語だけが"物語"がついて春物語と秋物語には、それぞれ日本版オリジナルの"ソナタ"と"恋"がつく。それは冬と夏、春と秋では重要になるテーマの問題が対称性に基づいて設計されているからなのかと思う。要するにわかりやすくするためにタイトルを分けたんじゃないかなと思う。じゃないと、普通にオリジナルタイトルの全て物語をつければイイことだし。でも、それぞれ制作期間が離れているからそんな事わからないだろうって言う感じもするのだが…まぁどうでもいいっちゃどうでも良い事だからあまり気にしないでおこう。

さて、この作品は前作の3本と違って中高年の恋愛を描いている。それと上流中間層のイザベルの家庭環境はどちらかと言うと地味な風に描かれている。またそこが何とも言えない良さなのだが、こういった田舎の共同体サークルのような感覚が映像から見てとれる。このロメールが描く恋愛喜劇の素晴らしさをぜひ味わって欲しい。マガリ役のベアトリス・ロマンは本当に素晴らしい女優だ。見ていて安心する。なんていうか母性本能がものすごくある女性だ。確か彼女は「美しき結婚」以来の主演を飾っていたと記憶している。またイザベル役を演じたマリー・リヴィエールは「緑の光線」以来だろう。

またロケーション(土地)が素晴らしくてよかった。ロメール自体この作品にほぼ10年かけて構想に挑んでいるとインタビューをしているし、かなりロケ地に考慮したんだと思う。そしてこの美しい土地柄は2008年に起きたトリカスタン原発事故により風評被害を避けるため2010年6月に名称変更を余儀なくされたらしい。実際に物語でも原子炉建屋の風景やウラン転換工場に関連する事業のショットと会話がある。


いゃ〜マガリと男性が結婚パーティーで出会って楽しそうにワインの話をするシークエンスがめちゃくちゃ好きでたまらない。てか、マガリを演じた女優さん凄く魅力的。俺こういう人めっちゃ好きだわ。それとジェラルドがマガリを車で送る際の緊迫した場面もたまらない。あんな温厚な彼女が怒りを見せていたのはあの場面だけだ。それと「冬物語」とは違って車の中の撮影が異なっているのもポイントだ。映画の最後に演奏される歌を歌ったクロード・マルティーとギターを担当したジェラール・パンササネルとコントラバスのピエール・ペイラス、ドラムのパトリス・エラルの音楽も最高である。


最後に、この映画春夏秋冬すべて丘の上や高台から街の景色が見れる場面を必ず1カ所入れていた。
Jeffrey

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