赤苑

リリイ・シュシュのすべての赤苑のレビュー・感想・評価

リリイ・シュシュのすべて(2001年製作の映画)
4.1
久しぶりに観た。やっぱり好きだった。どっしりと空気感が醸成された邦画であり、まごうことなき岩井俊二の代表作のひとつ。岩井俊二×小林武史の組み合わせはもはや言うまでもなく、最強。
ネット掲示板というメディアが感情を発明するという"新しい経験"、っていう前提のが根底にあるとして、打ち込まれる文字がゆるやかに世界と交差していく様子は単純に語りの形態として面白い。色んなシーンで持ってる手持ちカメラの映像が重なると、その語りはさらに重層的になる。文字、音楽、映像の重なりは決して明らかな輪郭を持つわけじゃなくて、緩やかに裏側の方で響き合っている。鬱映画って見方も多いけど、それ以上に圧倒的な音楽映画なんだよな。電車の中でも、田園風景の真ん中でも、携帯CDプレイヤーでリリィの音楽を持ち歩く彼ら。田園風景の中での星野の叫びは、間違いなく素晴らしいシーン。ずっと過剰に聞こえるピアノの音も、九野の姿と度々オーバーラップするることで、ラストの加速へ収束されていく。
14歳の彼らにとっての"疼き"は言葉にならない。「最近の時代の子」とどこか楽観的にカテゴライズされながら、裏側であまりに生々しく擦れ合っている。どこか"合わない"ような音楽は、まさにその"ずれ"とひっそりと交差している。津田の携帯の着メロがKinKiの夏の太陽だったり、確実にあの時代、彼らは居たはずなのに、その痛みは死というものでしか代えられなかったのか。リリィのコンサート会場の代々木で、青猫が星野だと知ったとき、雄一は心の底から絶望したのだと思う。この映画を終えたとき、その"新しい経験"が彼らにとって「回復する傷」かどうかはわからないけれど、言葉にならない叫びが、驚くほど瑞々しく、痛々しいほど生々しくそこに立ち昇っている。
赤苑

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