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笑の大学のERIのレビュー・感想・評価

笑の大学(2004年製作の映画)
3.3
なんだか気分が晴れなくて、そんな気持ちを笑い飛ばしたい気分やったので三谷幸喜の映画『笑の大学』を観ました。本当にやるせない気分だったので、少し頭がぼーっとしたまま映画視聴開始。

舞台は昭和15年。2人の男が警視庁の取調室で出会います。1人は、頑固で真面目な警視庁の検閲官・向坂(さきさか)さん。彼は普段から笑ったことがない。もちろん喜劇なんて観たこともない。それに対し、腰が低く笑いにどこまでも命をかける劇団“笑の大学”の喜劇作家・椿一(つばきはじめ)。戦争へと思想が向かう日本で、笑いを生み出す喜劇は規制され、検閲を受けて許可されなければ上演できない決まり。椿一の脚本も例に漏れず、検閲にかけられる。そこから物語は始まる。

笑ったこともない向坂さんにとって、笑いなんてとーーーってもくだらないもの。とことん笑いを生み出す喜劇を規制してゆく。椿一がもってきた脚本にとんでもない無理難題を押し掛ける向坂さん。それに必死に立ち向かい、その何台を超えて高いクオリティの脚本に塗り替えてゆく椿一。2人の7日間の闘いをほぼ1室だけで描くシチュエーションコメディです。

理不尽なことばかり嗾ける向坂さんの要求は、あら不思議どんどん面白い方向へと向かってゆく。いつしか2人は必死で面白い喜劇脚本を作り上げていってるではないか。向坂さんはまったくへこたれない椿一に、いつしか影響され笑うことの喜び、新しい世界に触れ人間らしさを取り戻してゆきます。そこに奇妙な絆が生まれていく。

どうやら、この椿一にモデルになる人が実在してたらしい。その人の名は菊谷栄さん。榎本健一の座付作家さんらしいです。菊谷さん自身も検閲に振り回されながらも、エノケンさんの全盛期を盛り上げていた立て役者。この人も召集されて戦死。彼の残した作品台本は今でも名作として語り継がれているらしい。

この映画を観て思ったことは、役所広司さんに気づいたら目がいってしまいます。間をもたせる芝居も十分に魅せられてしまった。

正直、役所広司さんの作品を全編通してみたことが実際そんなになかったこともあってか、この人の良さってものがあまり分かってなかった気がします。

今回この映画を観てすごいなぁって思った。フレームの中に無音で役所広司さんが一人写ってて、釘付けになるぐらい表情も喋り方もしぐさも絶妙やった。稲垣吾郎さんは、役柄的にも割とぺこぺこして弱々しいキャラなので余計、最初は存在感ががっつり負けてます。でもいい役者さんと芝居してるからかなぁ?、不思議とだんだん良くなっていくのが面白い。映画の中で確実に芝居が磨かれていってるというか、そんなことを感じた作品でした。

所々くすくす笑える所はありましたが、どっちかと言うと大爆笑する映画というよりは、三谷幸喜の笑いに対する姿勢や思想を感じられる作品です。ユーモアに溢れています。

エンディングはぐっと切ない。特筆すべき点は、美術さんがすごくて時代の雰囲気がうまく切り取られています。
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