櫻イミト

戦争と人間 第三部 完結篇の櫻イミトのレビュー・感想・評価

戦争と人間 第三部 完結篇(1973年製作の映画)
4.0
第三部 完結編(昭和12~14年)
日中戦争が開戦。陸軍の強硬と理不尽、ノモンハン国境事件の過酷を描く。
※前後の歴史の流れは第一部にメモ

冒頭、エイゼンシュタイン監督やタルコフスキー監督の作品クレジットで馴染みのある「モスフィルム」とユーリー・オーゼロフ監督への協力謝辞が入る。オーゼロフ監督は同時期に、国家的事業の超大作戦争映画「ヨーロッパの解放」(全5部 7時間48分)を撮っていた。本作ではロシアでの撮影協力に加え、同作の戦闘シーンがが大量に流用されている。その介もあって、本物のロシア戦車が大量に登場する戦闘シーンは他に類を見ない臨場感だった。

本作は反戦思想の青年二人を主役に、日本の仕掛けた戦争を“侵略戦争”と定義して批判。また、事前分析で人員物量ともに不利な数字が出ているにもかかわらず、精神論で強行した軍部の惨敗を描く。しかしその結果は反省されず、日本は太平洋戦争開戦へと向かっていく。

残念なのは、続く第四部の予定が日活の資金不足により中止されたこと。群像劇としては尻切れトンボで終わってしまった。監督の構想では東京裁判で伍代家が裁かれるまでを描くはずだったとのこと。観てみたかった。

日活は経営打開策として1971年からロマンポルノ路線をスタートしていて、本作は日活最後の文芸大作となった。

■シリーズ全体感想
第一部の時点では、財閥と軍部の癒着がじっくりと描かれる群像劇と思っていたが、第二部制作途中でシリーズ縮小の決定があったためか、後半は戦地の若者たちに物語が絞られて終幕した。結果、邦画では珍しい反戦思想の青年が主役の”明確な”反戦映画となり、個人的にはかなり楽しめた。山本圭と北大路欣也が演じた戦前の若者に親近感を覚えた。戦争映画で初めての感覚だった。当時、反戦を貫こうとしたのは社会主義者とキリスト教徒と芸術家だけという仮説がさらに強まった。

2部のレビューにも書いたが、本作を「左翼による自虐史観映画」と切り捨てるレビューを多く見たことも印象深かった。どんな感想も自由だと思っているが、“いかにもそれが常識”の様な物言いが多いと個人的には薄気味悪く感じる。タモリが今春の「徹子の部屋」で、今年はどんな年?と聞かれて「新しい戦前」と答えたことを思い出す。時代精神のリトマス試験紙たる作品かもしれない。
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