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春のソナタのukigumo09のレビュー・感想・評価

春のソナタ(1989年製作の映画)
4.0
1989年のエリック・ロメール監督作品。彼はナンシーにいた若いころはリセで文学を教える教師であった。パリに移り映画批評家アンドレ・バザンとの出会いから、映画の世界にのめり込むようになる。モーリス・シェレール名義で数々の映画雑誌に映画評を寄稿し、1951年にはアンドレ・バザンらとカイエ・デュ・シネマ誌を発刊する。このころ筆名をエリック・ロメールとし、後に編集長を務めることになる。映画監督としてもいくつかの短編を撮った後、1959年に初の長編作品『獅子座』を撮り、ヌーヴェルヴァーグの1人としてデビューを飾る。恋愛映画の巨匠として、「六つの教訓的物語」や「喜劇と格言」などのシリーズを手掛けているのも彼の特徴だ。本作『春のソナタ』は「四季の物語」シリーズの最初の作品として撮られており、1998年の『恋の秋』によってこのシリーズは完結する。

『春のソナタ』は女同士の友情が一つのテーマとなっている。これは1980年代後半のロメール作品に見られる特徴で『レネットとミラベル 四つの冒険(1987)』や喜劇と格言シリーズの最終話『友達の恋人(1987)』から継承されたものである。『春のソナタ』で主人公ジャンヌを演じるアンヌ・テイセードルもナターシャを演じるフロランス・ダレルも『レネットとミラベル四つの冒険』を観て、ロメールに手紙を送り、この役を射止めたといういきさつもある。
本作の冒頭のショットはパリ郊外のリセを映したものだ。ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ「春」が流れる中、リセで哲学を教えているジャンヌが現れる。彼女には恋人がいるが彼が出張中で、彼の部屋に一人では居心地が悪いと思っている。そんな時パーティーで偶然音楽学校に通うナターシャに出会う。最初から気が合い、ジャンヌはナターシャの家でしばらく居候することになる。留守が多いナターシャの父イゴール(ユーグ・ケステル)だがジャンヌがシャワーを浴びている間に帰宅して初体面を果たす。彼には他所にエーヴ(エロイーズ・ベネット)という恋人がいるが娘であるナターシャは気に入っていない。お気に入りの首飾りが無くなったのもエーヴを疑っているほどだ。ナターシャはむしろジャンヌに父の恋人になってほしいと思うようになっていた。
ナターシャに連れられてジャンヌはフォンテーヌブローの別荘へ行くが、そこでイゴールとエーヴも来ており鉢合わせになる。例によってナターシャとエーヴは些細なことで口論となりエーヴは出て行ってしまう。ナターシャも恋人からの誘いで出かけ、ジャンヌとイゴールは2人きりになり、次第に知的な魅力を放つジャンヌにイゴールは惹かれ始める。

本作ではそれまでのロメール作品と異なり音楽が随所に流れ、物語と共鳴するように春という季節を彩っている。冒頭とラストのベートーヴェンだけでなくシューマンが印象的に用いられジャンヌとナターシャの距離を縮めるのに一躍買っている。また草花の色彩も画面を彩っており季節を伝えてくれるだろう。ついでに紛失していたはずの首飾りも無事見つかり、爽やかな気分になれる一編である。
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