オーウェン

竹山ひとり旅のオーウェンのレビュー・感想・評価

竹山ひとり旅(1977年製作の映画)
4.8
この映画「竹山ひとり旅」は、津軽三味線を一地方のささやかな芸能から、民族的な芸術のひとつにまで押し上げた、高橋竹山の青春時代を描いた作品だ。

竹山の三味線が聞けて、それが素晴らしいことは言うまでもないが、監督・脚本の新藤兼人の演出の腕も冴えわたっていると思う。

若き日の竹山(当時は定蔵)を演じる林隆三、その母の乙羽信子、イタコでもある妻の倍賞美津子など、各俳優たちが小手先の演技ではなく、津軽の雪の重みを感じさせるような素晴らしい演技を体現している。

幼くして視力を失った貧農の子の定蔵は、母が苦労して買った三味線を持って門付けの芸人であるボサマの師匠に弟子入りし、雪の縁側に座って三味線を弾くというような厳しい修行に耐えていく。

そして、「俺は乞食になる」と堂々と宣言して、実際に乞食に近いような門付け芸の放浪の旅に出る。
その旅は、一面では差別や蔑視を受けた悲惨なものだったが、別の一面では、放浪者らしからぬ自由な明るさと愉しさを持ったものだった。

その旅の中で、新婚の妻を目あきの金持ちに犯される悲惨と、一方では正業に転職した元コソ泥(川谷拓三)や、れっきとした農民でありながら道楽として門付け芸をやっている老人と道連れになるなどの面白いエピソードも描かれる。

しかし、戦争というものは、こんなしがない生活すら放ってはおかなかった。
門付け芸ではやってゆけなくなった定蔵は、マッサージに転業しようとして、盲学校に入る。

そこで、そこの教師にひどい人間的な裏切りを受けたことによる絶望と、それを立ち直らせるための母と妻の献身的な努力が、定蔵を芸術家として更に大きくしていく。

東北の雪景色の厳しい美しさ、旅芸人たちの人なつっこい人間味、民衆芸術の生みの苦しみ、そして母もの、夫婦愛ものとしての悲愴なまでの悲しみなど、様々な良さが渾然一体となった秀作だと思う。
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