【剣難女難鬼より怖い加藤泰】
本作は私が10代の頃に初めて観た加藤泰作品である。アクの強い映像と燃える情念の描写が極めて印象深い股旅映画の秀作。
主演・中村錦之助が『瞼の母』や『関の彌太ッペ』以上に過酷な「業」と「宿命」を背負った渡世人を熱演。冒頭であの渥美清がちょろっとだけ顔を見せる。
掛札昌裕が担当した脚本が非常に倫理的で、アナーキーで型破りな作風の加藤泰演出に何らかの歯止めを効かせているような印象を受けた。
個人的に「加藤美学」が一部の映画マニアに認知されるキッカケとなった記念碑的作品だが、今観ると少々ストーリー展開が荒っぽく全体の構築度も低いので後半の失速感は否めない。錦之介は一世一代の【アウトロー的正義漢】を演じており流石。
どの時代も苦しみ、喘ぎ、泣き叫び…。繰り返される諸行無常といった加藤泰監督の一種の諦念が画面から匂い立つような出来となった。
最終的に男と女の結び付きに持っていくロマネスク志向の演出がちょっぴり切ない、この監督の入門編としては最適な映画。あゝストレンジ…。