のこ

ゲド戦記ののこのレビュー・感想・評価

ゲド戦記(2006年製作の映画)
3.5
金ロー(録画)で劇場公開時以来2回目の視聴。

当時は「主人公顔怖すぎ」程度のあまりに稚拙な感想しかなかったが、歳を重ねて観ると主人公アレンの死生観がこの映画の肝だと分かるし、自分自身母の死だったりでこの15年で膨れ上がった死生観と照らし合わせて作品を理解しようという試みが生まれた。

アレンは「いつか死んでしまうなら生きていても仕方がない。」と生きる意味を自問し自分を見失ってしまうが、これは自分にも身に覚えのある痛みだし、こんな問いを抱えたことがある人はきっと少なくないはずだ。死と生について描写したり考えさせられる映画は数多くあるが、この映画は他とは一線を画す何かがあると感じる。それは原作の良さだったり、アニメと実写の違いだったり、ジブリ作品であるというバイアスもあるのかも知れないが、この映画から感じた美しさと儚さとそこにある哲学はしかと噛み締めたい。

それらの評価の上で、内容の一部の描写が足りず原作若しくは解説を読まないと正確に理解できない点、あえて父親を殺害させた点、テルーのセリフが棒読みの点、全体的に陰鬱としていて観る人を選ぶ(これまでのジブリ作品の中でちょっと浮いてる)点などはやっぱり気になってしまう。特に父親を殺害した特異なアレンの経験というのは、彼の死生観に説得力を持たすにはちょうどいいかも知れないけれど、父親との確執や閉塞感を打破するために衝動的に刺して殺したことにするのはいささか安直というか、観客との間に価値観の差異が生まれる気がした。いや監督や鈴木敏夫さんの言うことも理屈は分かるけど、実際問題現実ではそんな簡単に殺せる訳はないしそれを我慢して皆んな耐えてんだから余計に共感しにくくなるというか、せめてアレンが病んで追い詰められた結果だということをもう少し描写出来ないかね、とか思ってしまう。なんか雑だなって。結局は好みの問題なんだけど…

あと、テルーの唄の美しさがこの映画の印象のすべてを持っていった感は拭えない。正直、映画のためにある歌というよりも、歌のために映画があったのではと思ってしまうくらい。
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