koumei

アメリカン・サイコのkoumeiのレビュー・感想・評価

アメリカン・サイコ(2000年製作の映画)
4.0
ゾッとした。古いな、という価値観がある一方、より現在の方がこの世界に近づいている部分があった。

話としては、エリートビジネスマンが資本主義や消費社会に疲れ、空虚な人間関係や見栄の張り合いのはけ口として快楽殺人を行い狂っていく話。
資本主義・消費社会批判としての暴力、というと、映画好きならブラッドピットのファイトクラブを思い出すと思うけど、まさに同じで、はけ口としての行為が殺人ならアメリカン・サイコ、殴り合いならファイトクラブ、の違いくらいで、内容はほぼ同じ。
よりブラックユーモアっぽく描いているのが前者、カタルシスとして描いてるのが後者。
快楽殺人だけを取り出すとそれだけが残酷に聞こえるが、それ以上に悲惨なのは、周りの人間。
エリートビジネスマン同士、お互い見栄を張っており、流行のレストランを予約できるかできないか、誰の名刺が一番カッコイイかで、マジで争っている。
そして、レストラン予約も名刺も完璧な男に対し主人公が嫉妬し、彼を殺してしまう。
死体をバッグに入れて運んでいる最中、知り合いに会って見つかってしまうのだが、知り合いは「そのバッグどこのブランド?」と聞くだけで、主人公が何をしているのかには興味がない。
ブランド主義への皮肉のシーンだ。
そして、死んだ彼のことを気にする同僚は皆無で、探偵が捜査にくるくらい。
次々と主人公は殺人を犯し、その行為に耐えられず、また、彼らとの唯一の差別点である「殺人を犯せること」の自慢も相まって、同僚たちに殺人を告白するが、「その肌どこで焼いてるの?俺なんて自宅に日焼けマシーンあるんだぜ」と全く興味をもたれない。
この他者への興味のなさ、自分にしか興味がない人間の描写が壮絶。
そして彼は暴走し、人間を殺しまくるのだが、(多少フィクションもあるが)誰も彼が殺人犯だと気付かない。
誰も彼に興味がないから。
この、消費社会の、モノを消費することが一番大事、他人よりもカッコイイモノを消費したもん勝ちだった時代の殺伐とした空気感が、恐ろしい。
主人公が自宅でかけている音楽の流行もメッセージ性がある。
要は消費社会下における人間の行動は、「自分が好きなモノ」を消費しているのではなく、「何が一番流行なのか」「何が一番他人から羨ましいと思われるか」が大事で、それを消費することがカッコイイという価値観で、いかに他人に合わせるかが大事なんだと。
主人公が好きな音楽グループも、最初は反社会、ロックを歌ってたが、それをあきらめ、商業主義に染まったから好きなのだと、そしてその商業主義に抗えないことを皮肉たっぷりにうたっているから好きなのだと。
それは、主人公の生き方にも重なる。
好きでもない仕事につき、好きでもないスーツを着て好きでもない高級レストランに行く。
主人公の口癖は「フィット(適合)」、つまり周りに追いついていくことが大事なのだと。それが消費社会なのだと。
物語の最後、自分はどこの誰とも見分けがつかないほど周りの同僚と同じ格好、同じ行動をしているがゆえに、殺人犯であることすら認識されず、「罰せられない」で終わるのだと。
でもそれは救いのないことなのだと。この世に救いはないのだと。

この消費社会批判は、2017年現在では共感しづらい部分もある。
今だったら、SNSで誰とでも簡単に繋がれるので無視されることはないだろうし、Facebookで簡単に承認欲求は満たせるし、他人より優れている自慢も簡単に表現し承認される。
他人に合わせることなく「オタク」として好きなことだけやって突き抜けることも許されるし、それで何億円も儲けることも可能な時代。

でも、驚いたのは、現在むしろ進行している病理を描いていること。
まずは、エリートビジネスマンでも流行に駆られて殺人を犯す、という部分は、ISISを彷彿とさせる。
ISISのほとんどは裕福な身分で、それなのにテロが流行しているからといって入ってしまう。
この心理は、主人公そっくりだ。
そして二つ目。
主人公が何をやっても「罰せられない」といい、銀行マンとしてM&Aを繰り返していたが、これは、サブプライムローンでやらかしたリーマンショックを彷彿とさせる。
彼らは結局「罰せられず」で、アメリカの税金で何十億も手元に残し、世界中を経済危機に陥れ平気で生きている。
最後、三つ目。
主人公が行く高級レストランに現れるのが、あの「ドナルド・トランプ」。
主人公があこがれるのが、あのトランプなのだ。
今現在、トランプは、アメリカン・サイコの主人公と同じ髪型、同じスーツで、何をやっても罰せられない、という気持ちで、エリート主義で差別主義者として世界で活躍している。
アメリカン・サイコは、「現代のサイコ」をしっかり予言していた。
この想像力に、ゾッとした。

この世に、正義はない。何をやっても罰せられない。
この世にバットマンはいない。
なぜなら、この主人公のクリスチャンベイル自身が、ダークナイトでバットマン役で出てくるから。
バットマンですらサイコな時代、正義はない。
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