クロスケ

DISTANCE/ディスタンスのクロスケのレビュー・感想・評価

DISTANCE/ディスタンス(2001年製作の映画)
4.7
【再鑑賞】
実行犯グループの生き残りである坂田を演じた浅野忠信の異物感が不気味です。
他の4人とは少し立場の異なる彼の存在は、特殊な経緯を経てではあるけれど、穏やかな関係性を形作る4人のコミュニティの中に緊張をもたらします。
決行の直前になって逃げ出したことに少なからず引け目を感じている坂田は、であるが故に湖を訪れたわけですが、「あちら側」に逝ってしまった家族を持つ「こちら側」の4人と接点が結べるはずもありません。
そんな居心地の悪さがヒリヒリと伝わってくる山小屋のシーンは、図らずも同じ空間を共に過ごすことになった5人が、それぞれの苦い記憶と向き合わざるを得なくなる、極めてスリリングな風土に支配されていきます。

彼らを山小屋に導いた当の本人である坂田は「あちら側」に行きそびれ、「こちら側」にも居場所がない、曖昧な存在として振る舞うほかありません。
その事実がさり気なく描かれているのが、立ち食いそば屋でのシーンです。やっとの思いで森から脱出し、久方ぶりの食事にありつく面々。すると、町に戻り電波状態が復旧したのでしょうか、4人は携帯電話で恋人や家族、職場などと連絡を取り始めます。しかし、坂田だけが連絡を取り合う相手がいないのか、一人黙々と蕎麦を啜っています。どうも携帯電話自体を持っていないらしい。
このご時世(製作当時の2000年代初頭であっても)、携帯電話を持たずに、社会と積極的に関わっていけるのでしょうか。新宿駅で皆と別れた後、バイクを失った彼は一体どこへ向かうのでしょう。

本作の浅野忠信を観ていて、ふと、たった一人でバイクを運転して町を漂流していた『Helpless』のケンジを思い出しました。勿論、監督も違う全く別の作品と認識していながら、坂田という男は『Helpless』のケンジと『サッド・ヴァケイション』のケンジを繋ぐ存在なのではと、些か飛躍した妄想を膨らませずにはおれませんでした。

そんな浅野が演じる坂田が井浦新演じるアツシに対して疑惑を持ち始めたとき、彼の瞳の奥に兆す暴力性を見逃してはなりません。この映画で最もゾクゾクする瞬間です。
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