SHOHEI

ナイト・オン・ザ・プラネットのSHOHEIのレビュー・感想・評価

3.8
ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキ。時を同じくして深夜の町を走るタクシーの車内で起きた、乗客とドライバーの交流を描く5つのオムニバス。

1話20分程度の短編集。オープニングを飾るのはウィノナ・ライダー演じるドライバーが映画製作のキャスティング・ディレクターを乗せてタクシーを走らせるお話。いずれは整備士として独立することを夢見る彼女が映画にスカウトされるという展開だが、掴みとしては弱め。ウィノナ・ライダーの運転手姿は様になっている。面白いのは2話目からで、ニューヨークを舞台に東ドイツからやって来た右も左も分からない言葉の怪しい新米運転手と、彼の代わりにブルックリンまで車を運転することになった地元客の物語。運転手と乗客の立場が逆転し、タイムズスクエアを見て感動するドライバーのリアクションが面白い。乗客はジャンカルロ・エスポジートが演じトークも賑やか。3話目は移民国家であるフランスが舞台。黒人ドライバーが盲人女性を乗せて車を走らせる。目が不自由だからこそ物事の本質をつく盲人の語りが印象的。肌の色は関係ないと、さりげなく人種問題に切り込むメッセージ性が見事。同じジム・ジャームッシュの過去作『ダウン・バイ・ロー』で存在感を見せたコメディアン俳優ロベルト・ベニーニがタクシードライバーを務める4話目は彼がとにかくしゃべり倒すユーモアいっぱいな回。彼は懺悔と称してくだらない昔話をマシンガンのように客の牧師に浴びせ続ける。それを仕方なく聞いていた牧師は段々と具合が悪くなってゆき、知らぬ間に死んでしまう。自分が殺してしまったと勘違いした運転手はある行動をとるが…。ロベルト・ベニーニのコメディの才能を感じさせる一作。最後は北欧ヘルシンキを舞台に、乗り合わせた乗客と運転手が互いの身に起きた不幸について語り合うしんみりした物語。遅刻で失業・愛車が廃車・娘が妊娠させられた幾多の不幸を語る乗客に対し、運転手の男は自分の家族に起きた悲劇について話し始める。それを聞いた乗客たちは自分たちの不幸以上に運転手に同情する。ひとしきり話を聞き終えタクシーを降りた乗客がぽつんと雪の積もった道端に座り込む場面は「不幸に大も小もない」ことを感じさせる。5つの話はどれも何気ないエピソードだが不思議と魅力的で心に残る。
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