三樹夫

ナイト・オン・ザ・プラネットの三樹夫のレビュー・感想・評価

3.1
ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキで、それぞれの乗客とタクシードライバーのやり取りを通した悲喜こもごもの人間模様の5編からなるオムニバス映画。低賃金労働者や黒人、移民、視覚障碍者、キリスト教的価値観と相対するような下品なおっさん、トランスジェンダー、失業者など、マイノリティ側の人間を組み込むことによって見えてくるものがある。

「ロサンゼルス」
映画の配役を担当しているビバリーヒルズ住みのおばちゃんを、一人称があたいのような女の子のタクシー運転手が乗せる。タクシー運転手のキャラクターに興味をひかれたおばちゃんが映画出ないかとオファーをかけるも、タクシー運転手やって整備士になりたいからいいと断られる。それでも引き下がるおばちゃんだが、ここで見えてくるのはおばちゃんの中にある、タクシー運転手や整備士は底辺職で映画スターは位が上という権威主義と見下しだ。映画スターになりたい女の子は一杯いるだろうけど、私はそういうのじゃない、上手く言えないけどと言われ、おばちゃんの中で何かが変化した。おばちゃんは劇中延々配役関係のクソみたいな中身の電話しており、観ている者をイライラさせそんな電話切ってしまえと思わせるが、最後はかかってきた電話を無視することでおばちゃんに変化が起こったことが表現されている。

「ニューヨーク」
黒人の乗客を東ドイツからの移民の運転手が乗せるのだが、黒人はタクシーも中々止まってくれず乗車拒否されるなど、黒人や移民というキャラクターを通して見えてくるものというやりたいことは分かるが、黒人の方も大概ステレオタイプなのだが、運転手の方がさすがにキツい。外国人描写でよくされる、現地の言葉に不自由なだけのはずなのになぜか知能も下がっているという無自覚な外国人への見下しステレオタイプまんまの人物像なのは観ていてものすごくノイズ。

「パリ」
視覚障碍者のおねーさんが良いキャラクターでかっこいい。冒頭でクソみたいな乗客を見せていることで対比となっている。誰よりも本質が見えている+悪態つきまくりというカッコいい人。

「パリ」
箸休め的な完全なコメディ。冒頭延々と運転手のおっさんの一人語りが続くのだが、おっさんの言動すべて、発する言葉の一文字一文字に至るまですべてが何一つ面白くない。もしかしたら自分は面白くないことを言っているのかもみたいな疑念が一切ない、自分のことを面白いと100%思っているようなナルシズムのキモさと不快感があるおっさん。演じている役者が『ライフ・イズ・ビューティフル』の人と、『ライフ・イズ・ビューティフル』もこの映画のおっさんとはまた違う、俺めっちゃ良いことしていると100%思ってるようなナルシズムのキモさがあった独善的なおっさんだったな。
しかし神父を乗せたところからコメディとしてドライブしだし、運転手のおっさん自体は相変わらず言動すべてが面白くないのだが、話を聞かされる後ろに座っている心底うんざりした顔の神父と合わさることで面白いコメディとして成立するという、笑いって組み合わせ次第で変化するんだなと勉強になる。おっさんのする話は羊とやっただの義姉で興奮するなど下ネタ満載で、挙句トランスジェンダーの立ちんぼなど神父への無自覚嫌がらせ精神攻撃の痛快な話。

「ヘルシンキ」
こいつ今日クビになったんだぞと不幸マウントをしかけるも、運転手の方からさらに不幸話が飛んできて涙するおっさん。しかしいくら自分よりも不幸な人間がいると言われた所で、冬の路上に放り出されるおっさんの画はとても悲しく、なんとも言えない余韻を残す。観てる間、ヘルシンキってどこの都市だったけと考えてしまった。
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