bluetokyo

下町の太陽のbluetokyoのレビュー・感想・評価

下町の太陽(1963年製作の映画)
3.2
ちょうど某新聞の日曜版に山田洋次監督の回想録的なエッセーが載っていて、下町の太陽のころの話。観客が不入りで映画制作会社(松竹)からえらく怒られたそうだ。それでも名作ではある。よく屈しないで自分を信じて、作り切ったなとは思う。
ヘタな恋バナの話にならなくてよかった。もし、そうなっていたら、客は入っただろうが、駄作になっていただろうし、山田洋次監督もそれ以降はなかったかもしれない。
よかったのは、山田洋次監督が脚本にも加わっていたことだ。くだらない恋バナになってしまうことを避けたのだろう。自分を曲げないということは大切なことだ。
もっとも、一番大きかったのは、倍賞千恵子さんの存在で、演技力の高さから、当時でも、映画製作の現場では、取り合いになっていたそうだ。
倍賞千恵子さんのような人をアンカー(錨)というそうだ。演技のできる人が一人でもいれば、映画は成り立つということだ。
ということで、映画監督なのに演劇の演技を勉強しまくっていた山田洋次監督と倍賞千恵子さんは意気投合したのかもしれない。

簡単にあらすじ。
主役の寺島町子(倍賞千恵子さん)は、化粧品工場で働いている。石鹸を箱詰めしている。たぶん、検品もしているのだろう。恋人は、毛利道男、同じ職場で働いている。正社員登用試験を目指している。
通勤電車に乗ると、工場労働者が、町子たち女子工員たちのことを物欲しそうにジトーと見るのであった。

そのうちに一人、北良介が、ある日、突然、町子を追いかけてきて、付き合ってくれ、と告白したりする。が、もう町子には付き合っている男がいるので断るのだった。

家に帰ると、年下の兄弟。兄は普通に勉強しているが弟の方は、ひねていてグレそうだった。
実際、鉄道模型の電車を万引きして警察に捕まった。
家でのやり取りが、テレビドラマのような、芝居がかかった型通りなものではなく、リアルな感じでよい。

どうも、弟は、年上の人たちと付き合って遊んでいるようなので、町子はそのうちの一人に会うため、その人が勤めている鉄工所に行った。
すると、その男こそ、北良介だった。が、まあ、それだけなのだが。

毛利道男は試験に落ち、ライバルの金子が受かった。

町子は、同僚にダンスパーティーに誘われる。パーティーの最中、金子がある女性にひっぱたかれていた。女たらしの金子であった。

北良介と出会い、立っての願いということで、一日だけデートをした。だが、やはり、付き合っている男がいるので、これっきりで、北良介とは別れるのであった。

その前だったかな、結婚した同僚がいたが、玉の輿婚というほどではないが、団地に越していった。招かれて、行ってみると、旦那は、化粧していないと嫌だと言うので、部屋の中でも化粧をしているのだった。ああ、なんか窮屈そうだと、町子は思うのであった。

ある日、浮かれた金子は、町子の近所に住む老人を車ではねてしまった。ということで、正社員はおじゃん。代わりに、次席だった毛利道男が合格ということになった。

大喜びする毛利道男。さっそく、町子に結婚しようと言ってくる。だが、町子は、他人の不運で成功して大喜びする道男を見て、なんだかなあ、と思い、結婚の話は断るのであった。

近所の人たちが、はねられた老人は、いくらぐらい賠償金を貰ったのだろうという話で盛り上がっていて、なんだかなあ、と思う町子だった。

こうして見ると、町子中心の群像劇になっている。ただ、恋バナ的な要素もある。北良介と町子だが。ただ、二人がどうにかなって終わるわけではない。なぜなら、恋の話ではなく下町の話であるからだ。それ以前に凡庸な話はつまらないから止めたのだろう。

金子の車にはねられた老人(東野英治郎さんが熱演)は、頭がおかしくて、近所の路地でいつも、勝手に交通整理をしている。路地なので車が通ることはないのだが。ただ、たまたま、路地を抜けて、車道に出てしまったのだ。金子も突然、変な老人が出てきたので、思わずひいてしまったのだろう。
この老人が何かというと、寝ていても、呼子笛をピリリリリと鳴らすので、おかしいというか怖いというか悲しいというか、よく、こんな人物造形をするな。
下町に近所の人たちが、人情溢れて、みたいな、型通りの表現はしないで、賠償金はなんぼ貰えるんだ、という話で盛り上がってしまう。これも、悲しいし、よく映画で表現したな、と感心してしまう。

とりあえず、山田洋次監督が脚本をすべて書けば、もっといい作品になったことは間違いない。
bluetokyo

bluetokyo