紅蓮亭血飛沫

北斗の拳の紅蓮亭血飛沫のネタバレレビュー・内容・結末

北斗の拳(1995年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

言わずと知れた週刊少年ジャンプの名作漫画、"北斗の拳”がハリウッドでリメイク!
私情になりますが、私、北斗の拳が大好きなんですよ。
小学校高学年時代は北斗の拳に捧げた、と言っていいぐらいハマっていました(その影響か、中学時代はジョジョに触れ始めそちらにもどっぷり)。
さぞ高品質なCG・VFXを駆使したハリウッドなりの北斗神拳が…!!
そのような期待は核の炎と共に絶滅しました。

ストーリーの大まかな流れは原作準拠となっており、婚約者・ユリアを奪った宿敵・シンの待つ地へと、北斗神拳伝承者・ケンシロウが復讐を胸に歩みを進めている、というもの。
北斗の拳といえばやはり北斗神拳という必殺拳法によるド派手な演出ですが、本作で描かれたものはというと…おままごとのようなシュールさを全面的に打ち出す、なんとも反応に困るものでした。
相手の体へと高速で秘孔を突いていると思われますが、いかんせん打撃音・SEが「ペチペチペチペチ…」なものですから、もう音からして迫力に欠けます。
BGMもないので一層気恥ずかしさが増す…。

ペチペチされたヒャッハー「くすぐってるのか?」
そうかもしれない…。

ケンシロウとシンが初めて拳を交えた際の南斗獄屠拳や、最終決戦時にシンがケンシロウへと与えた決め手の一撃、といった際には微かなれどエフェクトを付与させており、少なくともそれらのシーンではよく分からないけどちゃんとした技を決めている、という実感が視覚からも理解出来ます。
が、先程述べた"ケンシロウが高速で拳を飛ばし、相手の秘孔を突くシーン”に関してはそういった演出が施されておらず、迫力はないわ相手に効いているのかどうかすら分かり辛いわ、非常にシュールな光景となっている。
シュールギャグとして片付けようにも、これは"北斗の拳”であるわけで、由緒正しき原作を取り扱っているわけですから、魅力ある必殺拳法が炸裂するシーンにおいてはちゃんと描写してくれないと原作ファンは怒っちゃいますよね。

また、北斗の拳と言えばその名の通り、"拳”を主体とした戦いがメインなのに対し、本作では拳よりも"蹴り”に趣を置いたファイトスタイルとなっているのにも疑問視。
勿論北斗の拳は拳のみならず、蹴りだろうと武器だろうとあらゆる攻撃手段を用いて戦うのがセオリーとなっていますが、基本的に技を発動する際やここぞという場面では"拳”を用いる。
それが本作のケンシロウは、拳を滅多に使わない反面、蹴りを多用して軍勢を圧倒し、シンとの最終決戦においても"拳:3、蹴り:7”の割合で事を進めていると言っていいぐらい、蹴りが多い。
ケンシロウを演じたゲイリー・ダニエルズの蹴りは非常に見栄えが良く、映画のワンシーンとしてもしっかりと決まっているのでそれ自体に文句はないのですが…悲しいけどこれ、"北斗の拳”なのよね!
こんなの北斗の拳じゃないわ! "北斗の蹴り”よ!!

とまぁ色々言いましたが、ここからは褒めちぎります。
ケンシロウはユリアを奪われ、シンへの復讐に心を支配されている復讐の鬼となっているのですが、ストーリーを通して"復讐鬼”から"未来の為に戦う救世主”としての自覚を持つようになる、この改変は悪くないですね(怒るファンがいてもおかしくないとは思いますが)。
自らの命を捧げる行動の果てに、リンから勇者として賛美を受けるバットの存在(これは原作第二部以降で、リンとバットの関係を知っているかどうかで反応も変わりそうですよね)も良いアクセントになってくれていましたし、復讐に心を支配されていた主人公が心を入れ替え、理不尽なヒャッハー共が蔓延るこの世を正さんとする展開はバットの死も含め、好印象でした。

次は、ヒャッハー達の邪知暴虐っぷりが原作以上に残忍であるかのように、尺たっぷりと見せる事。
原作のヒャッハー達は所詮ヒャッハーでしかないので、舞台装置程度の扱い、存在でしかありませんでした。
それが本作では、リン達が暮らしている地域を徹底的に蹂躙するシーンにおいて、長回し撮影で一人一人やられていく過程をじっくりと映す、ギロチンを用意して殺害しようとする、平和的解決を求める者を真っ先に殺す…と悪役としての振る舞いが隅々まで備わっている、これが嬉しかった。
だからこそラストシーンでヒャッハー達がケンシロウの前に跪くシーンが解釈違い、微塵も納得出来ない…というものに仕上がってしまうのが残念ではあるのですが。
リンを殺すかどうか、で躊躇うキャラがいましたが、散々人々を殺しておきながら何故このシーンでは躊躇したのかもよく分かりませんし、ハッキリ言ってラストといいそこ辺りはいい加減だったな、と。

ゲイリー・ダニエルズ氏のキレのいい動き、ヒャッハー共のヒャッハーっぷり…と、これが"北斗の拳”でなければそれなりに楽しめた世紀末アクション映画として見れた事でしょう。
しかし悲しいかな、これは"北斗の拳”。
「北斗現れるところ 乱あり!!」ですからね、原作から逸脱したものに仕上がってしまうのもしゃーないですね。
(ハリウッド版の)ケンシロウ様がこれほどとは!! 読めなかった、この海のリハクの目をもってしても!!