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キネマの天地のかずシネマのレビュー・感想・評価

キネマの天地(1986年製作の映画)
3.4
あんなドーランの塗り方はちょっと駄目だわよぉ!と、メイクのおネエさんに言いたくなるw

途中、笹野高史の役が言っていた
「首を括ろうと思っていたが、活動写真が面白くて、笑っているうちに死ぬのを忘れた」という台詞。
こういう事ってあると思う。
「死ぬのを忘れた」ってのは極端な例でも、映画とか些細な何かが日常を過ごして行く上での楽しみやモチベーションになる事とか。絶対ある。
そのシーンで、娘を褒められて嬉しくなっちゃうお父ちゃん、生娘だとかセクハラめいた事を言われて腹立ってるお父ちゃん、可愛すぎないか。

サイレントから変わってトーキーが主流になりそうな頃の時代設定。
ミュシャの絵が店内にいくつも飾ってある上品な喫茶店のシーンもあり。
建築や美術、広告等、アールヌーヴォー(〜アールデコ)の影響を強く受けていた時代。
そこへ大正から引き続いた、とても可愛い日本的な芸術も加わる。
そして戦争の影も見えている。

窓から顔を出す彼をひと目見てそうだろうと思ったが、岸部一徳の役はやはり小津がモデルらしい。雰囲気出てるわぁ。
主人公小春は絹代さんがモデル。姓も田中。
作中「浮草」が出てくるが、小津のそれとは違っている。
「1カットで(撮影が)今までかかったのよ」とか何とか、小春と守衛さんとが話ている場面のカット割りは、小津を少々意識したのかなと思う。
笠さんも出ている。
山田監督はこの頃はまだ「小津さんは古い!」の頃?
それともリスペクト始まった辺りか?

平田満(の役)が色々な事を見失いかけている中井貴一(の役)へ言った「君は素晴らしい仕事をしてるんだぞ」と言う台詞が重く、優しくて良かった。
本当にその通りと思うから。

木の実ナナがビアホールで歌っていたドイツ語の曲「唯一度だけ」が素敵だった。キラキラしていた。
あのリリアン・ハーヴェイが歌った曲。
(映画「会議は踊る」の中で歌われる。)

話の中心には小春やお父ちゃん、中井貴一演ずる助監督がいたが、何せ登場人物が多いので少々散漫で退屈だなぁと感じた場面はあった。
が、こういった撮影現場での事を主とした題材に挙げた作品は好きだ。

只、山田監督という事もあり、キャスティングが狙い過ぎていてそれが一周して吹いてしまう…なんと言うか、やりすぎ。
いつもの様に弁の立つ寅さん改め喜八さんが、さくら改めゆきに向かって奥さん!とか言う。
で、寅さんに「あんな言い方しなくていいのに」といつもの様に説教するさくら。
さくらの旦那はひろしだし、息子は満男だし。
もうちょい違う印象の役でも良かったのになぁ。。
これもセルフパロディのようで面白いっちゃ面白いけど、どうせキャスティングするなら個人的には全然違う役が観たかったと思う。
でも、小春へ自分と小春の母親との馴れ初めを話したあの感じは、渥美清でなければ成り立たないとも思った。
最後の方のシーンで、彼の隣にいるのは倍賞千恵子でないと成り立たないとも思った。
…難しいな。

自分はあちらはまだ観ていないのだが、深作監督の「蒲田行進曲」の方を観ている人の方が多いのではないかと思う。
あちらがかなりメジャーな気もする。
あちらの作品はうちの両親も観たらしく「二十歳くらいの時にデートで観に行ったんだー」って、聞かされた事があるw
この作品を製作するにあたって、何やらやっさもっさあったみたいで…。
でも、負けず嫌いは好きやでw

主演を張れる様な役者、今大物になった様な役者をちょい役に使って、それを鑑賞者が見つけて自己満するのもこういった作品の面白いところ。
それと、若手役者の頃の出川が「(寅さんに引き続き)またいた!」とは思ったが、EDのクレジットを見るまでエドはるみには気づかなかった…!
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