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ファイト・クラブのみのレビュー・感想・評価

ファイト・クラブ(1999年製作の映画)
4.7
Where Is My Mind?

現代社会の抱える問題をテーマに難解な構成ながら、張り巡らせた伏線や革新的な演出を使用し視聴者を巻き込んでいくストーリー展開。
主人公の名前が明かされることなく「僕」という一人称であることにより置き換えや、感情移入がしやすくなっているのがポイント。
映画史に残るであろうエンディングは何度観ても鳥肌が立つ。

肥大化した資本主義と、その中で飼いならされた人間たちのマグマのようなフラストレーションの爆発。
仕事をし、強迫観念から物を買い、それに囲まれ、稼いだ分また消費する。
確かな実感と物がそこに存在するはずなのに、なぜか「生」だけはどうやっても感じられない。
自分はこの世界に存在しているのに、まるで存在していないかのような感覚に陥る。
本作では不眠症という分かり易い状態に置きかえている。
「生」というものに向き合いすぎて精神が蝕まれていく。
なんとも言えない空虚感から引き起こされる自傷行為によって「死」や「痛み」で生を実感しようとする。
これは現代社会へ通ずるものがあると言える。
痛みとはある意味「救済」なのかもしれない。

本作のひとつのテーマとなっている資本主義。
セリフやキャラクターのバックグラウンド、映像にまで資本主義の要素がちりばめられている。
ここで登場人物タイラーのセリフを紹介する。
「我々は消費者だ。ライフスタイルに仕える奴隷。殺人も犯罪も貧困も誰も気にしない。それよりアイドル、テレビ、ダイエット、毛生え薬、インポ薬にガーデニング…。何がガーデニングだ!タイタニックと一緒に海に沈めばいいんだ!」
現代人は企業広告やイメージに踊らされ消費させられている。
気にかけるべき問題は山積みなのに、目先の快楽に眩み商品を購入し、返済に一生を使ってしまっているということだろうか。
本作公開の数年前に歴代興行収入1位に輝いたタイタニックをも資本主義の産物とみなし皮肉るという有様。
このセリフだけでも資本主義、消費社会への皮肉が詰まっている。
広告に踊らされていると言うくせに、本作はサブリミナル効果をふんだんに使用している。
そして、タイタニックが例として上がっているがもちろん映画は資本主義あってこそのもの。
つまりこのファイトクラブという映画の存在自体が皮肉なのだ。
そして映画を観る為にお金をかける消費者も、、。
資本主義社会への痛烈な皮肉を作中に散りばめている資本の塊、ということになる。

そして本作の魅力はやはり革新的な演出、特にサブリミナル効果だろう。
サブリミナル効果とは知覚できるぎりぎりの限界値の刺激によって、人の潜在意識にメッセージを刷り込める効果のこと。
例えば、アベンジャーズエンドゲームの5分ごとに知覚できない速さで「ファイトクラブを観ろ」というスライドを挟み込むことで、ファイトクラブが頭に浮かぶようになるということだ。
サブリミナル効果は序盤からラストにかけて何度も何度も使用されているので要注目。

他者に向けた暴力ではなく、自己破壊。
自分自身に直面し、自分を壊し、精神を構築する。
痛みを感じ、苦しみと犠牲の尊さを実感する。
暴力を他人に向けるのではなく自己に向けることで、空虚な人生を力強い人生に変えることができる。
苦痛も犠牲もなしには何も得られない。
「僕」が物質至上主義と決別し、社会と闘争する姿を描く本作は、資本主義のあり方について問われるこれからの時代に観ておくべき作品だと言える。
み