りつ

ファイト・クラブのりつのレビュー・感想・評価

ファイト・クラブ(1999年製作の映画)
4.0
僕は、東西線ユーザーなのだが、大手町から南砂町までの間がものすごく電波が悪くなり携帯が使えない。日課のYouTubeで聞く稲川淳二の怖い話Bestが途絶え始めた。そんな中、手持ち無沙汰になった僕は車内を見まわしその車両内で一番可愛い女性と目が合った.。⚪︎その女性はとても怯えた表情をしていた。彼女の怯えた表情すら僕を釘付けにしてしまうと、見惚れていたが。ふと我に帰り、なぜ怯えているのかと言う当たり前の思考に辿り着いた。それまでに、実に4分と言う時間がかかった。その4分で僕はなんで哀れで醜い人間なんだと落胆するのには充分すぎる時間だった。。それは、彼女が後ろの汚らしいおっさんに生まれたての赤子のような、いや幼き頃初雪に胸を踊らし作った雪だるまののような全ての曲線があまりに美しくそれでいてなお、触れたら簡単に壊れてしまいそうな、お尻を鷲掴みされていた。僕は気がつくと彼女の絶対領域を汚したおっさんを殴っていた。車両内に長い沈黙が流れた。一体どれだけの時間沈黙が続いたのだろう。いや時間にするとたった数秒の出来事だったのかもしれない。車両内にパチ…パチと音が響いた。その瞬間啖呵を切ったかのように拍手の雨が降った。おじさんを殴った僕に対してだった。そして、人生で初めて人を殴った事により、震えの止まらない僕の手を彼女は優しく包み込んだ。あぁ、なんて小さくなんて暖かい手なんだろう。これだけの出来事があったのにも関わらずそんな事を考えさせられてしまう。それほどまでに優しすぎる手のひらだった。彼女は僕にお礼を告げてから、連絡先を教えてくださいとささやいた。そんなのは二言返事で、承諾するに決まっている。それからは、余りに時が経つのが早かった。全てが夢のような時間だった。いや、今も夢のような時間は続いていると僕は彼女と彼女と僕の間に生まれたもう1人の天使に向けてそう呟いた。あぁこの幸せが永遠に続きますように。そう願うと同時にどこからともなく不気味な男の声が響いた。それは淳二だった。いや淳二稲川だった。我に帰り南砂町を超えた僕は長くそして短い時間にすると14分の人生を共に過ごした彼女にそっとさよならと呟き東西線を後にした。僕の耳にはいまだに稲川淳二が囁いている。明日はどんな子と結婚するのだろうそんな情け無い妄想を楽しみに僕は帰路に着いた。
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