ダンク

ファイト・クラブのダンクのレビュー・感想・評価

ファイト・クラブ(1999年製作の映画)
5.0
久々に以前書いたレビューを自分で見直して、これはいけないと書き直しました。
自分の1番好きな作品です。

この作品のうまいところは話の転換の仕方。あれ?と若干不思議に思う局面で新しく興味深い話題でその感覚を粉飾し次の場面へと切り替えていく。その不信感が募りに募った末真実が明らかになり、その不信感の原因が判明するその瞬間は爽快。

この映画よく過激で少し様変わりしたといった印象で迎えられがちだが、この映画の素晴らしさは主人公が追い求めた普遍性にある。
言うまでもなくこの映画はラブストーリーなのであるが、その普遍性とやらはだいぶ捻くれていて多くの過激なニュアンスと演出のスパイスによって隠されている。

彼はテロリストになりたかったのか?彼は消費者主義を捨て本当の意味で自由を追い求めたかったのか?ただ何の意味もない殴り合いの中に見出す生きる感覚に人生を支配されたかったのか?禅を極める僧侶になりたかったのか?全てを知り力強い完璧な男タイラーダーデンになりたかったのか?
これらは全て彼には必要な「過程」であったのだ。
何の?
自分がマーラを受け入れ、マーラが自分を受け入れるためのである。
実に長い道のりだ。
普通の人間ならできないことを主人公はやってのけた。
そして2人は結ばれる。
この壮大な捻くれと過程に埋もれた普遍的な愛の物語が実に感動的で素晴らしい。
2人が出会った時はどんな感じであったか思い出して欲しい。
魅力的な異性に対する行動がどこにもなかったであろうか?確実にあった!
主人公が彼女に近づき知り合いになったその過程は他のラブストーリーとなんら変わらない普遍的なものであったと思う。
ただ捻くれていただけである。
ファイトクラブはこの壮大な捻くれを強制していく過程が過激なのであって、根本的には全く過激ではない。素晴らしいラブストーリーだ!
捻くれたタイラー達は話し合う。「結婚が人生のゴールなんて、母親の次は奥さんなんてまっぴらだ」しかし言葉とは裏腹に主人公は自分がマーラのことを強く思っていることに徐々に気付き始める。嫉妬し、彼女を遠ざけようとするが、タイラーが自分だとわかったところでやっと決定的に彼は分かる。彼女のために物語は動いて行く。
タイラーが自分だとわかる前に主人公はタイラーとのドライブにて女々しい自分を殺して、タイラーとの無理心中を図る。ここから主人公は長い眠りに入りタイラーが暴走してしまう。
完璧だと思っていたタイラーは自分の思う完璧な男では無かったのだ。彼は試練であって自分そのものではない。そのことに気づいた主人公は自らの口に銃を突きつける。
この銃が汚れているとかこれが馬鹿げていることだとかと言う冷笑的な彼の面影は消え去り「僕の目は空いている」と告げる。
そして彼は彼でありえた。
本当の自分。
多くの男に尊敬され、屈強で頭の回るリーダーでそして愛する女性を守り愛する男。
愛する女性を愛せる男、そして愛される男。マーラに対して素直で自らの欠点を隠すまでもなくボロボロの状態でも彼女と堂々と接するこれまでとは違う主人公の目はしっかりと前を向いている。
こんな普遍的でどこにでもありふれているなんでもないこと、要するに恋愛がこの2人の場合これ程の遠回りをしてやっと実るのである。
その普遍的なドラマはラストに感動の最高潮を迎る。
マーラの手を握り、「出会ったタイミングが悪かった」と照れ隠しのジョークとも真剣な愛の告白とも取れる気の利いたセリフを囁き、ビルの爆発を特等席で2人眺める。where is my mindのフェードインと強烈なイントロと爆発して行くあまたのビルが印象的だが、静かにそれを見つめる手を繋いだ2人の後ろ姿はもっと印象的である。
最高のハッピーエンド。主人公の勝利。本当の幸せ。主人公が追い求めたものを掴んだ瞬間がこんなにはっきりと気持ち良く描かれたラブストーリー映画を僕はファイトクラブ以外に知りません。
本当に最高です。
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