がぶりえる

気狂いピエロのがぶりえるのレビュー・感想・評価

気狂いピエロ(1965年製作の映画)
5.0
やっぱりめちゃくちゃ面白い。この気持ち良さと喪失感の入り交じった感覚は何なんだろう。本当に好きな作品。
なんと言ってもこの映画の疾走感が良い。全てを捨てて真っ直ぐに破滅に向かっていく二人の爽快さと恐ろしさを淡々と見せるかっこ良さ。日々目の前に答えのない問いを投げかけてくる退屈な日常を捨て、フラストレーションも憂鬱も吹き飛ばす破滅劇。俺たちは自由だ!!誰も俺たちを止められない!!的な何でもかかってきやがれ状態になったと思ったら、後半一転。食い違う二人の考え。ここからはピエロ(ではなくフェルディナン)視点で語られるこじらせ恋愛劇の様にになっていく。この映画の台詞的に言えば「好きだけど、好きじゃない。嫌いだけど、嫌いじゃない。一緒にいたいけど、いたくない。愛してるけど、愛してない。」的などちらとも付かない、というより自分の本当の気持ちが何なのか自分でもよく分からない状態に陥っていく。ここがめちゃくちゃ共感できた。自分が一体どうしたくて、何が望みなのか、自分でも分からなすぎて頭がパンクする感じ。海辺で過去の失恋話してたおっさんにしても、フェルディナンにしても、マリアンヌにしてもそう。精神の自由とか愛が欲しいだけのに複雑過ぎて、めんどくさすぎて、ウンザリする「人間」という厄介な生き物として生きなければならない辛さと不自由さ。それが結局ラストの悲劇に繋がったと思う。きっと殺したかった訳じゃないし、自爆したかったわけでもなくて、ただどうしたら良いか分からなくて死しか思い付かなかったのだと思う。「こんな死に方は…」と火を消そうとするけど間に合わず自爆するフェルディナンのラストの虚無感と喪失感ったらない。でも同時に、一人の男の破滅劇が完全なものになった事に対する微かな爽快感もあったように感じる。観客の心を掴んでそのまま亜空間に解き放つ強烈なラストだった。
色彩のお洒落さも語らないわけにはいかない。照明とか小物とか色合いが美しい。画面全体を色が支配していると言っていい程に鮮やかな色が目立つ。ラストの青ペンキ顔に赤と黄色の爆弾巻き付ける所も、妙な美しさがある。キャラクターの感情や過激な描写に反して映像は常にオシャレ、というのが心をぐちゃぐちゃに掻き乱してくる。その映像のごった煮感がとても好きだった。理屈どうこうではなく、「格好いいから」「美しいから」「なんかいいから」という理由でズカズカやってる感じが良い。ゴダールの強引なセンスによって生み出された奇跡的な映像を浴びる快感が詰まっている。「観る」というより「感じる」映画。

全ての複雑かつ難解な悩める人間に対する警告と慰めのための映画