塩故障

気狂いピエロの塩故障のレビュー・感想・評価

気狂いピエロ(1965年製作の映画)
4.4
シェイクスピアが作劇するところのように、誠実な態度でもって描かれる体験というモノは、悲劇だけでも、喜劇だけでもいけない。その両方を綯い交ぜにする。ユーモアと悲哀、美しさと醜さ、モラルとアモラル、光と翳……。生々しく律動する身体に肉薄しながらも、確かな質感を持った死は、常に鼻腔をかすめている。入江の獰猛な鳶みたく、一瞬にして鑑賞者の意識を攫い、記憶の洞穴に焼き付いて離れないような徹底的な美しさと、塗りすぎたピーナツ・バター、チェスト・ナッツの備忘録みたいに、冗長にして散漫な余白の数々。初めて本作を鑑賞した、中学生の頃にはまだ、浮かび上がってくるはずもなかった余韻と興奮。ピアノ運指の如く、身体化され、一本の手縫い糸みたいにリズミカルな映像表現の作り出す本作は、まさに、感動の至るところにある。
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