YP子

気狂いピエロのYP子のネタバレレビュー・内容・結末

気狂いピエロ(1965年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

1965年のフランス・イタリア合作映画。

65年!?65!?
52年前!?

びっくり。

今の時代でもこんなに根強く有名でいるこの映画。
ジャン=リュック・ゴダール監督のヌーヴェルヴァーグを代表する作品の1つ。そして、ヌーヴェルヴァーグの終焉でもあるこの作品。
ヌーヴェルバーグ界での神、サミュエル・フラーも出てきたね。
この作品を最後にジャン=ポール・ベルモンドはゴダールと決別します。

ライオネル・ホワイトの小説『Obsession』(1962年)が原作。
他のゴダール作品同様に脚本と呼べるものはなく、ほとんどのシーンは即興で撮影。

「気狂いピエロ」の「きぐるい」は「きちがい」が正しいけど差別用語だから、ちょっと変えた邦題にしたんだって。もしくはそのまんま「ピエロ・ル・フ」。「気狂い○○」ってもうこの先ずっとピエロの事思い出しちゃうな。すっごくしっくりきてるよね。



ひとことで言ったら、「赤と青の映画」。
私は色でできた映画を初めて観ました。
これは、人生で経験しておかなければならない経験だと思います。


観賞したのは2日前なんだけど、すごいね。
すごい頭にこびりついている!!
原色の絵具を脳みそにぶっかけられた感じ。

アンナ・カリーナがもんのすごくかわいい。かわいすぎてそれだけでも満足しちゃうくらいかわいい。
(最初マリアンヌ役をシルヴィ・ヴァルタンで考えてたけど断られたんだって!え!?アンナ・カリーナがハマリまくってて、他の女優さんなんて考えられない!!
※フェルディナン役にはリチャード・バートンを考えてたんだって)

何がかわいいって、顔はもちろん髪型、メイク、服、小物、着こなし、仕草、全部!!!


・登場のネイビーのブレザーに鷲のワッペン。いい子風。
・水色ガウンにフレンチ夜会巻きの髪。部屋には赤や青のピカソやゴッホの絵。鍋は真っ赤。
・フリフリの切り替えが超ガーリーな白のタイトAラインワンピ。
・そして私はぶっとんで目がハートになったこのコーディネート。赤のトップスにくるぶし丈の赤×緑のタータンチェックパンツ。そこへ水色の靴下にスニーカーに迷彩のキャスケット。さらに!US.ARMYのフィールドジャケット!!OMG。最高。US.ARMYワッペン付きのミリタリージャケット持ってるから次の休みはこれを着ようってすぐさま思う。
・赤白の細ボーダーで超ベストサイズのひざ上丈のタイトすぎないタイトワンピ。この格好でフェルディナンと海辺で話してる時の髪型が、さいっっこうに好き。ものすごくラフなハーフアップ。
・白パイピングとひらひらがついた真っ赤なタイトワンピ。胸元にはピンクの花。
・衝撃的にかっこよすぎるマリンスタイル。首がつまった白Tをハイライズのくるぶし丈細めデニムにインして足元はバレエシューズ。それに本気のマリンキャップ。もう最高最高最高!スタイルも最高だし。髪型も最高だし。もうこの着こなし好きすぎて画面をガン見。赤いカーディガンを羽織ってトリコロールカラーにもなってた。このマリンスタイルがこの映画で一番好き。
・突然、ほんと一瞬だけ映った赤いストライプのシャツとショートパンツに黒いハット姿。ほんとに一瞬だったけどすっごいかわいかった!
・ラストは青と白の細ボーダーのキャミに赤のひざ丈台形スカート。サザエさんでもしてそうな服装だったのにアンナ・カリーナが着るとこんなにフレンチおしゃれに。


ほとんど足元は超ぴったりオーソドックスな黒のバレエシューズかメリージェーン。
あと、もうこれがこんなに似合う人はアンナ・カリーナしかいない!!
犬のバッグ!!!!!!
最初、なんだろう?ずっと何か細長い布みたいのをブルンブルン振り回してるな。てゆうか、いっつもマリアンヌの口紅どっから出てきてるんだろ?
そう思ってみてたら、まさかのブルンブルン振り回してたのがバッグで、その中に口紅やミラーをしまっていて、しかもそのバッグがダックスみたな胴の長いかわいい犬の形をしていた(笑)
唖然。
こんなこのバッグが似合うのは彼女しかいない!!!


衣装デザイナーがいないこの作品。ほぼ全てがスーパー(プリズニック)でアンナ自信が調達(させられた)したものだっていうから驚きです!
センス良すぎ。


こうして、アンナ・カリーナを眺めてるだけでも飽きない映画。
アンナ・カリーナが演じるマリアンヌがこれまた魅力的な人。(ちょっと、というか、だいぶ小悪魔だけどね)
ツンとしてそうでそうでもなくて、子供のようで大人で、元気なようでだるそうで、天真爛漫な感じ。
真っ赤なワンピを着ながら「私の運命線」をピョンピョンと跳ねながら歌う姿はハツラツとしてて若さが溢れ出ててすごく良かった。
フェルディナン役のジャン=ポール・ベルモンドも同じくピョンピョンと軽快で素敵だった。
こういう魅力的な人に憧れちゃう。

マリアンヌは感情で物事を判断し、感情を大事にしている。
フェルディナンは言葉で語り、思想を持つ。
お互い好きなんだけど、すこしずつお互いの心理的構造がハッキリしてきてだんだん違う方向を見始めちゃったよね。
途中からは、キューブリックの「lolita」みたいになってたような。


ジャン=ポール・ベルモンドは相変わらずキュートなお顔をしてらっしゃいましたわ。
この赤ちゃんみたいな顔好き。フェルディナン役にぴったりだったね!我が道を行くちょっと頼りない感じが、なんか顔に合ってた。
青いペンキがあそこまで似合う人も他にいないよ。



脚本がないから、ベルモンドもアンナも行き当たりばったり的な感じで撮影をしてたんだって!
しかもこの作品、ゴダールとアンナの離婚直後に撮影してるんだって(笑)雰囲気は最悪だったみたいだし、撮影もその日暮らし状態。
まさに「気狂い」です。
わざとそうしたのか!?ゴダール。その「気狂い」さが、「え!?どういうこと!?」っていう場面をどんどんリアルにしていってゴダールワールドをつくりあげていったのかもね。
アニメのルパン三世のようなカッコイイ走りでマリアンヌを追い詰めて銃殺。
あのシーンも伝説的だけど本当のラスト、顔を青く塗ってからのダイナマイトで爆死!もうあっぱれですわ。
こんな奇妙なインパクトは久々です。
青いペンキを塗りたくったピエロの顔は、一生わたしの頭に残ります。
青い顔、赤いシャツ、黄色のダイナマイトに赤のダイナマイト。
色の三原色がきれいだった。
この最後はもはや伝説でしょう!
「気狂い」さを表現するのに顔にペインティングする。ってとこまでは分かるよ。
ダークナイトのジョーカーだってそうだし。
だけど、塗る!?一色のペンキをただただ顔に。べったり。しかもとてもきれいな青。
いや、偶然の思いつきでこの色をべったり顔に塗ったんではないと思う。
この映画は、色にとても大事な意味を込めているんだと思う。


ハウスパーティーでは赤や青のライトで部屋が染まる。
部屋の絵や鍋や雑貨は赤や青のもの。
マリアンヌの服も今思い返せばほとんど、赤と青。ガウンだって水色。鍋だって赤。
逃亡中の車も赤と青。
マリアンヌが死ぬ時は青と白のボーダーの服と赤い服、顔には赤い血。
フェルディナンが死ぬ時も服やダイナマイト、顔が赤と青。

赤は太陽。
青は海。
一生混じり合うことができない。いや、いつかは混じり合えるのか?合えないのか。永遠ってあるのか?

赤は感情的で情熱的な色。
青は知性と残酷の色。

赤がマリアンヌ。
青がフェルディナン。
青は赤に弄ばれる。でも赤は弄ぼうとしてしたわけではない。感情のまま判断したらそうなっただけの事。青は殺すことで赤を手にすることができたのか?できなかったのか。赤は感情のまま突っ走って最後は幸せだったのか?そうではなかったのか。

この映画は恋愛物語なのか?ちがうのか。

この映画は単なる赤と青の物語だったんだ。


深いというか、見事というか、見えすいた芝居なのか!?というか、もう何が何だか!!
してやられたり!って感じ。
間違いなく言えるのは、私はこのセンスが大好きだ!ってこと。
ゴダールの色彩感覚にも脱帽した。

この全面に出てる強めの色に負けないアンナの目力にも惚れた。

ところどころ出てくる詩。
ところどころに散りばめられている巨匠たちの絵。
その全てを理解する事はわたしにはできないけど、嫌いではない。

画面から伝わってくるもの全てが心地よかった。

ゴダールがますます好きになった。
こんな意表を突くぶっとんだ映画、他にだれが撮れるっていうの!?
この世に彼しかいない!
敷居が高いアート作品のように見せかけて実はいたずら小僧のような目線でつくられている。
人生や人の考えを、こんな風に捉える人がいるんだ!ってびっくりした。

間違いなく、最高の監督です。



「気狂いピエロ」。
色彩で出来ている映画。
見えなくなっていた、感じる事を忘れてしまっていた感情をつつかれるような映画。

“俺には見るための〝目〟がある。そして、聞くための〝耳〟話すための〝口〟がある。それが全部バラバラに動くような感覚にとらわれる。動かしているのは俺なのに、俺が何人もいる感覚になる。”
BY フェルディナン


マリアンヌのファッション、軽快なダンス、かっこいいフォード、かっこいいアルファロメオ、ピエロが読む詩、ピエロの青い顔、爆死からの広大な海。赤。青。赤。青。


まったく色褪せない。
50年経った今観ても、全然時代遅れではない。
「勝手にしやがれ」もそうだった。本当に色褪せないよね。ゴダールの映像って。
それってやっぱり、そういうことだと思う。
カッコイイものは色褪せないしどの時代にも受け入れられるよね。

芸術やファッション、人間の欲望みたいなもの、その不変な本質をとらえているんだと思う。


DVDのジャケットも好き。


最高な1本です。
スコアが100まであるなら、100にしたいくらい。素晴らしい作品でした。
この先100年だって、1000年だって人をあっといわせ深く考えさせる事のできる最高の映画だと思います。
こんな素晴らしいものをこの世につくってくれたゴダールは偉大です。
YP子

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