半兵衛

インディアン・ランナーの半兵衛のレビュー・感想・評価

インディアン・ランナー(1991年製作の映画)
4.6
お互いのことが見えやすい兄弟だからこそ、理解し得ない壁というのが厳然とあらわれてそこから抜け出そうとしても壁を壊せない悲しみが一層のしかかる。その壁を壊して弟を理解しようとする警官の心優しき兄(デヴィッド・モース)と、ベトナム戦争のトラウマから元々の荒っぽい性格が更に拍車がかかり破滅主義者のような存在になってしまった弟(ヴィゴ・モーテンセン)がお互いに触れあおうとして傷つき悶える姿が、ショーン・ペン監督による繊細な演出によって静かに浮かび上がる様は圧巻の一言。

誰も悪くないけれど結局どうすることも出来ないまま堕ちるところへたどり着いて映画は終わるけれど、あのラストは決して断絶ではなくきっと弟も優しさや施しで人が救えることが出来なくてもそれが次世代への繋がりになることを気づくことを示唆しているようで優しい気持ちになれる。そしてそれを示す神の加護のような出産シーンのインパクト。

心優しい兄のデヴィッドと、居心地の悪い家族に苛立つもそれに悩む弟のモーテンセン、両者の名演が映画に奥行きをもたらす。特にヴィゴ・モーテンセンの、体の動かし方や目の動かし方すべてがセクシーでやっていることは最悪なのに男性としての魅力を放ちそのやさぐれた中にある繊細な心情といい共感できなくてもどこか心惹かれてしまう。

デニス・ホッパー、チャールズ・ブロンソンといった名優たちが脇に配置され、映画を引き締める。特に優しそうなお爺ちゃんのブロンソンは髭がないこともあり最初誰か把握できないかも。

流れる名曲の数々や服装、言動などから自然と舞台となる70年代らしさを醸し出す演出も見事。
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