インディアン・ランナーの作品情報・感想・評価

「インディアン・ランナー」に投稿された感想・評価

世の中、出来の良いやつと、出来の悪いやつがいる。クラスには算数ができるやつとできないやつがいるし、バイト先では同期でも良い大学に行ってるやつと高校にも行かなかったやつとがいるし、いつかバイトを辞めて大企業に就職するやつもいればずっとバイト暮らしでやってくやつもいる。人生って人生ゲームみたいだ。神様がルーレットで出した目に合わせて、俺たちは分け与えていただいた顔と体と脳味噌と才能を発揮して必死に生きていく。

兄弟にも必ず、出来の良い方と、出来の悪い方ってのがいることになる。この映画は、出来の悪い弟が社会に馴染めるように出来の良い兄ちゃんが手伝ってやるお話だ。

弟はなかなか困ったやつだ。放蕩息子だし、自分勝手にすぐにキレるし、親父が死んでもヘラヘラしてる。父親になる準備もないのに子供つくって、いざ出産となると怖気付いて逃げ出す。はっきり言ってクズ男だよ。だけど、クズ男って言って切り捨てるんなら簡単だろ。

兄貴に向かって「俺は算数ができなかった」と語る弟の凶暴な眼差しが哀しい。算数がわからないし、世の中の理屈がわからない。兄貴が無意識のうちにやってのける「理にかなう」ってこと、それだけのことに彼がどれだけ憧れていたか。いくら逃げようと走っても、世間は脚を掴んで逃してくれない。彼は捕まらない存在になりたかったのだ。獣に襲われることのない、メッセージのようになりたかったのだ。街を歩くインディアンに対して彼が向けていた鋭い視線はきっと、幼い頃からなんとなく抱いていた嫉妬からだったんじゃないだろうか。

脚本の誠実さとストーリーの強度はさることながら、映画に散りばめられたディテールが愛おしい。海辺のささやかな結婚式のシーン、奇跡みたいだった。

最後まで兄貴は優しい。それが彼には嬉しくて、悔しかったのだ。寝室で、全裸のまま何も出来ず呆然として煙を喫むあいつの気持ちが、俺には何だか分かってしまう。だって俺にもめちゃくちゃに出来の良い、かっこいい兄貴がいるんだもの。
notebook

notebookの感想・評価

4.1

このレビューはネタバレを含みます

1968年のネブラスカ州。真面目に生きるパトロール警官ジョーのもとに、ある日、弟でベトナム戦争に出征していたフランクが帰還してくる。暴力的な性格の弟は以前よりも暴力性を増しており、問題行動を繰り返すようになる。兄は弟を立ち直らせようと奮闘するが、ついに弟は取り返しのつかない事件を引き起こしてしまう…。

若い頃はハリウッドの問題児、今ではオスカーを獲得し、名実ともに名優のショーン・ペンの初監督作品。ある兄弟の愛情と相剋を静かに描いた傑作。

兄のジョーは農業を営んで、美しい妻と結婚し、幸福な家庭を築いていたが、農業が経営難に陥って警官になった。
しかし抵抗する逃走犯を射殺した苦い過去を持つ、家庭と世間体に縛られた男だ。
折角、戦争から生きて帰ってきたが、自由で身勝手な問題児の弟を自らの手で逮捕したくない思いから、「まともに暮らせ」と気に病む。
客観的に見ると、物語の序盤はどこのアメリカの田舎町でもありそうな話だ。

弟フランクは仕事に就き、恋人が妊娠して、ささやかな結婚式を挙げ、幸福で平穏な日常をスタートさせるが、やはり真っ当な市民生活には安住できない。
社会の規範に体良く収まろうとした時、フランクの心の中に自分では制御できない感情が「インディアンの使者」の姿を借りて荒々しく駆けてくる。

フランクの破壊的な行動は、戦場でPTSDを負ったことに起因するだろうが、それ以上に彼自身の破滅的な「業」によるものなのだろう。
理由もなく世を否定した反抗期を送った者なら理解できるはずだ。

兄弟ゲンカをした後、バーの店主が、カウンターに流れた兄の血を雑巾で拭いたときの激しい怒りも分からないではない。
「兄貴の血を穢れたモノ扱いするな!」と、こんな自分でも愛してくれる兄への不当な扱いに見えたのだ。

勢い余ってフランクは店主を殺害してしまい、町から逃げることに。
ジョーは逮捕せず、彼の逃走を見送る。
ジョーの目には、幼き日のまま、子どものままのフランクの姿が見える。
ジョーにとってフランクはいつまでも、子どもの頃のフランクだった…。

兄弟2人を演じる俳優の演技が、双方のキャラクターへの共感を引き起こす。
デニス・ホッパー、チャールズ・ブロンソンらベテランの脇役陣が短い出演だが、いぶし銀の存在感を見せる。
時代に合わせた選曲も素晴らしい。

弟フランクは、若い頃ハリウッドの問題児だったショーン・ペンが良く演じていたキャラクターだ。
兄フランクは俳優として認められ、更生したペン自身を投影しているように見える。
しかし、実際彼には破天荒な弟がいた。薬物の過剰摂取などが原因で、本作から数年後に40歳の若さで急逝した俳優のクリス・ペンである。
劇中の兄弟はショーン・ペン自身のダブルイメージであるようにも見え、また弟クリス・ペンへの愛憎を描いたようにも見える。

この地味な田舎町の兄弟の物語が感動的であるのは、ショーン・ペン自身の個人的な感情が如実に反映されているからだ。
mh

mhの感想・評価

5.0
問題ばかり起こす弟をめぐる兄弟もの。
弟はベトナム帰りという設定なので「ジャックナイフ」とかそういう系統かと思って借りてみたけど、どっちかというと「リバーランズスルーイット」の(この映画の公開当時の)現代版みたいな感じだった。
随所にカントリーソングが流れてて、そのストーリー(と、デニスホッパーの存在)もあいまってアメリカンニューシネマといったおもむきも。
出演者は十年後にブレイクするヴィゴモーテンセンをはじめと超豪華。チャールズブロンソンめちゃ渋い使われかたしてる。
うれしくて絶叫するぶっ飛んだヒロイン役のパトリシアアークエットがかわいかった。
脇役にいたはずのベネチオデルトロ見つけられない。
・逃亡犯を撃ち殺すくだり。
・弟の行動動機。
・クライマックスにおけるバーでのやり取り。
・幻覚のように現れるインディアンランナー。
これらが具体的になにを意味しているのかよくわからない(もしかすると字幕翻訳者が下手かもな)んだけど、なんかわかるような気がしてしまう力技のうまい脚本。
ひげ面のおばさんとか細部がはりきりすぎなきらいもあるけど、バランスがいいんだよね。
監督は脚本も手掛けたショーン・ペンで、ブルーススプリングスティーンの「Highway Patrolman」がもとになっているのだそう。歌詞の和訳を読むと、なるほど内容そのままだった。
そこで陰部はなくていいんじゃねが二回もあった。
これは理屈抜きでめちゃくちゃ好きなやつだった。
面白かったなぁ。
タケ

タケの感想・評価

3.2
地味な内容だけど豪華で渋いキャストのショーン・ペン初監督作。
演出が懲りすぎて勿体ない感じ。初監督で気負いすぎたか。
タイトルからは想像できない内容でした。
映画を見ている間の感情の振れ幅が大きくて、すごく濃厚な時間を過ごしたように感じました。疲れた…。

陰惨なシーンも多いし、精神的にキツいシーンもある。でも、脇役も含めて登場人物のディーテイルが丁寧に描かれているせいか、全ての人への愛が感じられる優しい映画だなぁと思いました。
ちょい役が印象的で素敵な人が沢山出てたし、見惚れる画面も数多くありました。
ブルース・スプリングスティーンの「Highway Patrolman」を基に作られた映画。
親が死んでから真価が問われる兄弟の絆物語!
弟が酒場をめちゃくちゃにした後に更に兄がまためちゃくちゃにして挙げ句の果てに店主を撲殺するのはさすがに酷いけど、兄弟愛ってこんなに深いんだ。

見事な撮影、編集、音楽の使い方、伏線回収。キャストについても一人一人語りたい。
ショーン・ペン監督作品は「イントゥザワイルド」と「セプテンバー11」の短編(←めちゃくちゃ良い)しかまだ見てないけど、監督としてもすごい人だということを認識。
初監督作品でスプリングスティーンの曲を基に兄弟愛の映画を撮るなんていぶし銀ですね🚬
broccoli

broccoliの感想・評価

4.2
すべてを受け入れ諦観する兄と、
すべてを拒絶し抗う弟。
兄はデヴィッド・モース、
弟はヴィゴ・モーテンセン。
正反対ながらも、
どちらにも心を寄せられる。
この2人が演じる兄弟が良い。
俳優ショーン・ペンの初監督作。
役者のチョイス、音楽含め、
センスのかたまり。
ベニチオ・デル・トロも
チョイ役で出てるよ。

兄は息子として、夫として、
父として、警察官として、
責任を果たし誠実であろうとする。
包み込むような眼差しの、
デヴィッド・モース。

戦場から帰った弟は、
怒りにまかせ無軌道だが、
心の奥底に生き難さを抱え、
懊悩し涙する。
若き日のヴィゴ・モーテンセンは、
不安定な危うさと鋭さのなかに、
とてつもない色気をまとい、
この上もなく魅力的。しかし、
時に狂気を映すブルーの瞳には、
ファンであっても震え上がる。
こんな男に惚れてはいけない。

世の中とどう折り合いをつけ、
生きて行かざるを得ないか。
「奴らは問題を解く時間もくれない。」
そして弟はこうも言う。
「おれはまだ何の答えも見つけてない。」

目の前の幸せに背を向け、
走り去る弟の姿に、
「幸福に傷つけられる事もあるんです。」
という太宰治の
『人間失格』の一文を思い出す。
そしてひとり残された、
兄の悔恨と喪失を思うと、
胸が張り裂けるようだ。

※マイオールタイムベストムービーの感想を再構成しています。
origa

origaの感想・評価

4.5
どうにかしたかったのにどうにもならなかった。それでも血も道も続いていく。なんだかたまに見返してしまう。
妊娠・結婚式からの下り坂な展開が堪える。

家族に対する弟の愛情も本当なんだろうね。でも自分の生き方価値観と折り合いを付けることが彼は出来なかった。同志かと思えたヒッピー彼女すら、妊娠出産という儀礼を経て自分の位置から離れていくような感覚、悲しすぎる。

私自身は気付いたら早々と捕まってしまっていたけど、捕まらない生き方に憧れることも今でもあるなぁと思いました。
軍人か特殊部隊員やらされがちなデビッドモース主演。
ワンちゃんみたいでカッコいいよな。

ヴィゴモーテンセンはベトナム帰りの狂気含んだ感じとても上手かった。
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