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ヒルコ 妖怪ハンターのもとまちのレビュー・感想・評価

ヒルコ 妖怪ハンター(1991年製作の映画)
4.3
生首から蜘蛛足を生やしためちゃキモ妖怪ヒルコvs.おっさん妖怪ハンター沢田研二の熾烈な戦いの90分。

生首妖怪ヒルコのデザインは『遊星からの物体X』のノリスヘッド和風ver. こいつらがストップモーションでチョコマカ動き回ったり、人間の首に巻き付いて長い舌をデローンと出してきたりするのだ。この手作り感、最高である。
また、ヒルコの主観視点のシーンは『死霊のはらわた』のシェイキーカムをめちゃくちゃハイスピードにした感じで斬新。ヒュイーンというへんちくりんなヒルコの鳴き声と共に、縦横無尽に動き回りながら登場人物に迫りくるカメラワークは迫力満点。塚本晋也の映像への愛と遊び心みたいなのをひしひしと感じる。

そして、ヒルコに立ち向かう妖怪ハンターはあの沢田研二。ジュリー太ったなぁ。おっさんだなぁ。『太陽を盗んだ男』『魔界転生』の美青年的な雰囲気はどこへやら。本作では、臆病で頼りない考古学オタクのキモいおっさんとなっている。ガラクタみたいな武器を振り回しても全然ダメだったり、ヒルコにビビりまくって奇声を上げたりと、コミカルな演技が面白い。キンチョール片手にヒルコ達に挑むバトルシーンとかシュールすぎて爆笑した。

ヒルコに襲われた人間は催眠暗示をかけられてしまい、自らの首を切断するよう仕向けられる。次々と登場人物が首チョンパされ、画面が派手な血しぶきで真っ赤に染まる様はさながらスプラッター映画。首なし死体が転がりまくって、切株映画好きのファンも大喜びだろう。

しかし、本作の最大の魅力は夏休み冒険映画的な要素だと思う。舞台となるのは夏真っ盛りの田舎町。群青色の空。美しい緑の田園風景。小鳥のせせらぎとセミの鳴き声。そんな中を、自転車に乗った少女がハツラツと駆けてゆくシーンで本作は幕を開ける。この時点でエモさビンビンである。まあ、その少女も数分後にはあっけなく首チョンパされるのだが。
そして、彼女に淡い恋心を抱いていた主人公の少年。彼も沢田研二と共にヒルコと戦うのだが、彼の想いが実ることはない。切なすぎやしないか。意中の女の子がおぞましいクリーチャーに変わり果てるのを見た彼の心境やいかに。
そう考えると、これまた爽やかな夏の情景で締めくくられるあのラストに違和感を感じなくもない。なんたって主人公は一晩で家族も友人も失ったうえ、大変な宿命まで背負わされたのだから。が、まあそんなことはどうでもいいのである。多分。

多くの方が言われているように『学校の怪談』残酷版みたいな映画だった。夏の青春冒険モノやクリーチャーホラーなど、様々な要素が詰め込まれた傑作である。
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