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夫婦のIMAOのレビュー・感想・評価

夫婦(1953年製作の映画)
4.0
国立映画アーカイブで、数年ぶりに観直しました。成瀬は地味だけどやっぱり面白いです。

成瀬巳喜男、1953年の作品。この二年前に撮った『めし』と精神的には続編とでもいえる作品となっている。(『めし』のレビューは前に書いたのでご興味ある方はそちらをご覧ください)
サラリーマンの中原伊作(上原謙)と妻の菊子(杉葉子)は地方から東京に戻ってくる。しかし、家が見つからず困っていた。そこに会社の同僚・武村良太(三國連太郎)が妻を亡くしたばかりで、その家の一階を間借りすることになる。最初はうまく暮らしていた三人だが…

今ならまあシェアハウスで起こった話、ということで展開できるかもしれない。だがもっとエグい話になってしまうだろう。この時代ということもあるだろうが、成瀬はあえてそうしない。
例えば、菊子と武村がちょっと良い仲になりそうなところも寸止め!という感じで演出する。そして中原と竹村が、「君は僕の女房が好きなんだろう?」「ええ、好きです。でも僕も一線は超えないつもりです」と明け透けと話し合う。多分、成瀬の興味はそこではない。成瀬が描きたいのはいつも「女の気持ち」なのだ。
中原の妻・菊子は夫に奉仕しているが、何も報われない。台詞の中にもあるが、学生時代に修学旅行で行って以来一度も旅行をしたことがない。この時代の女性(特に主婦)の生き方というのはそういうものだったのだ。その行き場のないやるせなさ、哀しさを夫婦間のこまかい描写で見せてゆく。一番の頂点は夫婦で言い争って、誤ってラーメンの器をひっくり返すところだが、ここも決してオーバーな演出ではない。もっとオーバーにだって出来ただろうが、成瀬は控えめに演出する。それだけに妙にリアルにあのシーンは心に残る。誰にでもどんな夫婦にでも起こり得る出来事を、極めて冷静に描きその普遍性は古びていない。そこに描かれている習慣や常識は古くなっているが、彼らの気持ちは古びていないからだ。

この映画は先にも書いたが、この数年前に撮られた『めし』の精神的続編とでもいえる作品になっていると思う。『めし』は夫婦の倦怠期を迎えた二人が仲直りし…というところで終わっているが、その夫婦が数年経ってみたいな展開になっている。なにしろ上原謙のキャラクターがほぼ同じだ。妻の杉葉子、好きですね。女優としては短い期間しか活躍しなかったが、とても品のある人。そして三國連太郎!この人は重い芝居が有名だが、実はこういう軽い芝居も得意な人。天才ですね。

余談だが、成瀬の映画にはやたらのラーメン出てきますよね。今泉力哉もよくラーメン出てきますが、あれは成瀬の影響だと、僕は勝手に思っています(笑)
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