note

トゥルーライズのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

トゥルーライズ(1994年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

超エリート諜報員ハリー・タスカーは、表向きはセールスマンと偽り、家では不器用なダメ亭主、年頃の娘も言うことを聞いてくれない。そんなハリーが立ち向かう敵は核ミサイル4基を武装したテロ集団。地球と家族を救うべく、壮絶な戦いを繰り広げることになったハリーだが…。

公開当時に劇場で見たが、スカッとしたと言うより「オイオイ、やりすぎだ…」と、思った方は多いはず。
妻子にも正体を隠し、家族思いの父親と凄腕の秘密諜報部員という二重生活を送るヒーローの荒唐無稽な活躍を描いたスパイアクションであるが、今見るとブラック・コメディとして秀作。
当時、最高額の製作費が投じられたエンタメアクション超大作なのだが、今見ると、アメリカと国家を狙うテロリストを、とことん馬鹿にした毒気たっぷりのコメディに見えるから不思議だ。

「T2」後のシュワルツネッガー・ブームが最高潮の時に製作された本作。
911を経験した今では、イスラムによるテロを題材としてコメディ・アクション映画を製作するのはもう無理だろう。
そういう意味では、今見ると悪く言えば古臭くてフザケた作品、良く言えば古き良き90年代ならではの大らかさがあり、貴重な作品でもある。

冒頭からシュワルツネッガーがスパイ役と云うのが笑える。
タキシードでエレガントさを醸し出しても、異様な筋肉は隠し切れず、誰が見ても怪しい。
そして007そっくりのスタイリッシュなアクションをするものだから「いや、貴方でなくても…」と思ってしまう。

その後も子供の思いつきをそのまま形にしたかのようなアクションは、ド派手の一言に尽きる。
今ほどCGに頼っていないので映像にも迫力がある。
主人公が馬に乗って街を駆け抜ければ、馬の荒い呼吸が伝わり、悪党がオートバイで高級ホテル内を走り回れば、見ている方も本物の罪悪感を覚える。

そして、妻の浮気を疑い、権力濫用した浮気調査は、核爆弾盗難という世界の危機の本筋とは何の関係もない(笑)。
妻をナンパしようとした一般人を懲らしめ、ついでに妻にセクシーなダンスを強要して、自分のモノだと自己満足。
今なら女性人権団体が黙ってないだろう。

悪ノリが過ぎて囚われの身になるが、拷問が実行されていれば、シャレにならなかっただろう。
だが、そんなピンチも軽く脱出して、反撃してしまうのが、シュワルツェネッガーの演ずるヒーロー像。
服は破れて筋肉は見せても、怪我らしい怪我など全くしない。

平凡なセールスマンのはずの夫がバリバリ敵をなぎ倒していく姿に「ランボーみたい」と妻が惚れ直すなど、男性目線のご都合主義にも程がある。

妻と核弾頭奪還のために、当時最新鋭のハリアー機が大活躍する。
アメリカ軍は世界最強であり、それに最強のマッチョなヒーローが載る。
何と分かり易いプロパガンダなことか。

ハリアーがミサイルで本物の橋を爆破するシーンはCGでは出せない大迫力だ。
トラックを止めるためだけに橋もろとも爆破するとは、突き抜け過ぎて苦笑いを生む。
どうせならここまで徹底したほうが、酷すぎて笑えて来るという計算なのだろう。
アクロバティックにヘリで妻を救い出し、海で爆発する原爆のキノコ雲をバックに夫婦がキスするシーンは「そこまでやるのは、ちょっと…」という反応にしかならない。

ラストの市街戦では、ハリアーでビルを破壊し、挙句にはテロリストのボスが人間ミサイルになって吹っ飛ぶ。
本作は極めてポジティブな戦闘描写を笑いながら鑑賞するのが正しい。
その無双ぶりにはブレがなく、テロリストと変わりない破壊は、作り手も見る側も誰もが了解の上である。

アメリカを核攻撃すると脅すのだから、悪党は死ぬべきであるという単純思考。
敵の組織は背景など語られず、アメリカ様に楯突く単なる悪役として、一人残らず殺害される。

そして味方は誰一人死なない。
それがマンネリ化した当時のアメリカのアクション映画だが、その中でも本作は飛び抜けて悪ふざけが過ぎる。
「それは、あり得ないだろう」と思う馬鹿馬鹿しさが連続する。
その徹底ぶりがジェームズ・キャメロン監督らしいといえばらしいのだが。

熟年夫婦の危機がコメディの本当のテーマではない。
カナダ人のキャメロン監督が撮った本作の本当のテーマは「アメリカって大袈裟で馬鹿な国でしょう?、そんなアメリカを狙うテロリストはもっと馬鹿なんですよ。」だ。

私は本作がイスラムの怒りを買い、911テロの原因の一部になったと、密かに思っている。
note

note