あんじょーら

サマーウォーズのあんじょーらのレビュー・感想・評価

サマーウォーズ(2009年製作の映画)
3.8
高校生の小磯くんは夏休みなのにも関わらずネットでの仮想空間OZ(オズと呼ばれる公的機関さえも取り込んだ言語も瞬時に翻訳される、世界共通のインターネット上の世界で、自身のアバターがその仮想空間で様々なことが出来る)と呼ばれるメインテナンスのバイトを学校のPCでやるような、それほど取り得がある訳ではない理系の少年です。線は細いですし、美形であるわけじゃなし、唯一の得意分野の数学を生かして数学オリンピック日本代表選考会で、惜しくも破れたことを未だに引きずって友人で、一緒にバイト中の佐久間にこぼす毎日です。そんな小磯くんに美人の篠原先輩から、一緒に4日間長野県上田に行くバイトを持ちかけられます。そして、そのバイトの内容とは・・・という冒頭です。


長野県の上田といういわゆる日本的風景を残した世界をリアルな舞台とし、仮想現実的世界をOZという設定を生かし、そこに高校生の感覚を入れて、さらに大きな家族という媒体に巻き込まれる、という構図がとても心揺さぶられます。伏線もかなりいろいろ貼ってあって生かされ方もなかなかだと思いました。別に高校生でなくとも、かなり楽しめる作品に仕上がっていると思います。そして現実に起こりうる事件性、世界観、人間関係、未だにあるであろう家柄のような都会では久しく見かけなくなった伝統を垣間見せてくれますし、夏休みという非日常ではないけれどある意味特別な、もう戻ってこないかけがえない時間を意識しやすい時期でもあり、そこに異性の先輩、大家族という(主人公の家族はほとんど出てこないのでおそらく一人っ子)要素、さらに自然が残るほのぼのとしたリアルな舞台と、完全なる電脳世界でのシビアな舞台のリンクが、落差があってなお違和感なく感じられて良かったです。


主人公の成長できる部分も良かったですし、なにより得意分野のちょっとしたきっかけが、世界の大混乱を招くことに繋がり、しかもその地続き感が、切迫感が、かなり良かったです。なんというか、日常と、非日常の混じり具合と言いますか、それぞれのキャラクターの強さと弱さと言いますか、その辺が絶妙と言えます。


ただ、気になる部分もあって、それは、やはり宮崎駿さんの影響力って大きいんだな、と言うことです。この大家族の女性陣と言い、現実との折り合いの付け方、その辺に「紅の豚」の飛行機の修理の場面を思い出させますし、気っ風のいいおばあさんのキャラクターも、何かしらの(「天空の城ラピュタ」のドーラなど)影響を感じさせますし、最後の最後のアレはどうしても「カリオストロの城」を連想させます。もし、キングカズマの使い手が女の子だったらもっと宮崎作品の影響を感じたと思います(ま、私は終盤まで女の子だと勘違いしてました)。ま、それは受け手の中の問題でもあることは記しておきますが、作り手側の問題でもある、どちらにしろ影響が大きい、と言うことが言いたかったのです。


そして全く話しは違うし、設定も近いものは無く、絵だって違うんですけれど、どうしても同じ種類の「匂い」がする(「匂い」という表現でお茶を濁してしまっているのは私の表現力の問題で、とてもよい意味で使っています)作品として、もっと勝手な私の受けた印象を言葉に置き換えると目指した作品として「海がきこえる」を連想させる余韻を持った作品です。これは私にとって最大級の賛辞です。


また、イヤラシく見るなら、草食系高校生男子からは、とても強く支持されそうな世界観と構図を絶対に崩しませんし、そもそも小磯くんが先輩に選ばれるのも偶然という、非常に小磯くんに自身を投影し、感情移入していると気持ちよいのですが、それが出来なかった場合はちょっと気持ち悪く感じる部分もあります。もう少し突っ込んで世界を崩しても面白かったのではないか?と思ったりもしますが、そこは私も世界の半分を占める男子の一員なので、映画を見ている間は気にならなかったです。また、気にさせないような様々なフックを作ってくれていて、そんフックが絶妙に心地よいので、この映画の世界にどっぷり浸かれます。


ただし、どうしてももう少し制作に頑張ってもらいたかったことは、主人公、およびヒロインの声優さんに声優のプロではなく、人気俳優なりなんなりを当てるなら、もう少し頑張ったテイクを当てて欲しかったです。序盤(シリアスに言えば後半だって)の声の浮き方はちょっと気になりますよね。でも、おかげで、想い入れ深い作品「時をかける少女」も見たくなりました。


アニメ作品に抵抗が無い方に、夏休み、という非日常が思い出される方にオススメ致します。