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グラン・ブルー/オリジナル・バージョンのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

フリーダイビングの世界チャンピオンであるエンゾは、ライバルにして幼馴染のジャックを大会に誘う。 エンゾにとってジャックと戦うこと、そして彼に勝つことは長年の夢だった。 しかし2人の対決は思わぬ悲劇を呼んでしまう。エンゾはジャックへの対抗心に燃えるあまり、無謀な記録に挑み、その挙げ句に命を落としてしまう…。

リュック・ベッソンの監督第3作目にして本国で大ヒットした出世作。
実在のダイバー、ジャック・マイヨールをモデルに、ボンベを使わずに潜水記録を競うフリー・ダイビングに命を懸ける「男のロマン」を描いた秀作。
男のロマンは美しいワガママである。

公開当時に劇場で鑑賞し、この作品でフリー・ダイビングというスポーツを始めて知ったが、この作品の他にダイバーを主題とした作品に出会っていない。
それだけ、この作品を超えることは難しいということなのだろう。
アメリカのスポーツ映画のような男同士の友情と切磋琢磨、ラブコメ調の微笑ましい男女の恋愛。
人物描写はマンガチックではあるが、そこにフリーダイビングの過酷さのスパイスと哲学的なエンディングが加わり、新たなフランス映画の登場を予感したものだ。

見所は何と言っても青い海の美しさだ。
だが、ダイバーたちはそういった表面上の美しさではなく、もっと本質的な深層へと深く潜り込んでゆく。
深く潜れば潜るほど太陽の輝きは消え、暗い孤独な場所へと彼らの体は導かれる。

「そこに山があるから登る」登山家の探究心に似ているが、そこは否応なく「死」を意識させられる場所。
それでも海に魅せられたジャックは文字通り「もっと深く知りたい」と願って止まない。
俗世間では生きづらいのか?「陸に上がる理由が見つからない」とまで言う。
もはや地上では生きていけない男であり、家庭生活など成り立たない。
家庭を望む女性は愛してはいけない男だ。

魂の半分と言える親友エンゾを競技中の事故で亡くしてから、彼の魂に引かれるかのように、ジャックは海に取り憑かれ、深夜の海に一人潜って行こうとする。

彼を愛して、彼の子供を宿していた恋人のジョアンナはジャックを引き留めようとするが、止めることはできない。
ジャックは人間の限界を超える深海に達した時、目の前に一匹のイルカに誘われるように、底知れぬ深淵へとジャックは消えてゆく…。

このラストシーンを理解できないと語る人も多い。
愛してくれる女性を、自分の子供を身ごもった女性を置き去りにして、どうして自ら海に去っていくの?と。
自ら海の中に沈んでいくのは、当然ながらジャックの自殺ではなく、ジョアンナとの別れと旅立ちの隠喩だ。

美しい海の映像に酔いしれて映画に惹き込まれる内に、本当に深淵に惹き込まれる主人公。
単なる美しい映像の海の映画にとどまることなく、ある意味哲学性を持ったからこそ、口コミでカルト的人気を博する映画になったのだろう。

ジャックにとって、何よりも愛すべき場所は海であり、海に帰っていく。
それは良い言い方をすれば物凄くピュアな心であり、ジャックの姿はあまりに幼く純真な少年だ。

たとえ死の危険性が高くても、たとえ家族や子供が居ても、危険を顧みず頂を目指す。その行為を女性は理解できない。
それでも男は死の危険も家族の悲しみにも目を背け、頂を目指す。
それ男の性なのだ。

恋人よりも、新しく生まれてくる自分の子供よりも、友の眠る場所、愛する海に沈むことを選ぶ男。
しかも自分を海深く沈めるシンカーのロックをジョアンナに外させるとは。
自分のことは諦めろという、なんと残酷な行為なのか。

最後にジョアンナは「Go and see my love」と言う。
この言葉には、地上では暮らせない男との未来への諦めと、愛した男がありのままの姿で、その希望通りに生きて欲しいと、まるで子どもに対する母性のようなものを感じる。

女性から見れば、男はいつまでも子供であり、どうしょうもない幼さを持っている。
愛している男なのに、いつまでも幼さを捨て去ろうとしない。
女性はとことん自分の愛を訴えるが、それでも男が気持ちを変えないと分かった時、もう諦めて「私の愛がどれだけ強くて、大切なものだったかを知るはずよ」と男のワガママを許し、突き放す。

男は好き勝手にしたい生き物だが、後ろめたさがあり、女性に許しを得たいのだ。

本作は、男の友情とか、情熱とかいう物を描き、非常に男っぽいが、本質的には少年の映画だ。
ラストシーンを見て、こんなワガママな男性を女性は理解できるのだろうか?
だが、この作品を好きだという女性も多い。
幼くて、バカで、いつまでたっても大人になりきれない男を、「本当に男ってどうしょうもないわね」と大きな母性愛で見ることができるからかもしれない。

冒頭に戻る。
男のロマンは美しいワガママである。
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