似太郎

レスラーの似太郎のレビュー・感想・評価

レスラー(2008年製作の映画)
4.6
【grand finale】

奇しくも2008年は『グラン・トリノ』や『ダークナイト』といった完全に失墜したアメリカ白人種をテーマとした作品が幅を利かせたのだが、本作もそれに該当する。

かつて(80年代)栄光を浴びていた典型的なマッチョ白人であるレスラーのランディ(ミッキー・ローク)の廃れた容姿に下級階層のアメリカ人の現在を見た気がする。もうかつての偉大な国=アメリカの栄光は戻らない。そんな絶望感をヒシヒシと感じる映画。

異才ダーレン・アロノフスキー監督らしく皮肉めいたラストが印象的である。どう考えても最後の飛び降りで主人公ランディは死ぬ筈。あたかも【武士道と云うは死ぬことと見付けたり】といった趣き。これほど「人の死」が美的に輝くとは…。

本作の主人公ランディの内面に典型的なアメリカ野郎の醜悪な部分と美しい部分が互いに混在しており、微妙なアンビバレンスを形成していく。
同時に日本人である我々観客の方にも孤独な主人公ランディの絶望が伝播し、終局を再認識させられる。

時代の変わり目だからこそ作られた問題作であり感動作。その辺も『グラン・トリノ』に通じるのでは❓
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