みおこし

ニュールンベルグ裁判のみおこしのレビュー・感想・評価

ニュールンベルグ裁判(1961年製作の映画)
4.4
渋谷のTSUTAYAで思いがけずDVDを発掘したので迷わず購入!ずっと観たいと思っていたのですが、CSでも放送しないしTSUTAYAディスカスにもないしで念願叶ったりです。

第二次世界大戦後、ドイツのニュルンベルグで行われる軍事裁判に降り立ったアメリカ人判事のヘイウッド。ナチ政権下で権力を誇った4人の法律家たちが関与した2つの裁判の是非をめぐり、関係者による白熱の激論が繰り広げられる...。

今年観たクラシック映画の中では個人的ベストかなと。とにかくムダがない説得力に溢れた脚本と演出、そして秀逸なキャスティングが見事に功を奏した名優たちによる熱演。その題材もあいまって、まさにあらゆる点から後世に残すべき傑作です。スタンリー・クレイマー、天才すぎる。

ヴァイマル憲法の草案にも携わった法律家ヤニング(バート・ランカスター)や弁護人のロルフ(マクシミリアン・シェル)をはじめとする被告側、血気盛んな検察官ローソン(リチャード・ウィドマーク)、様々なバックグラウンドを持つ証人たちや関係者(モントゴメリー・クリフト、ジュディ・ガーランド、マレーネ・ディートリッヒ)、そして苦悩する判事ヘイウッド(スペンサー・トレイシー)。登場時間の差はあれど、全員が全員奇跡のハマり役。そもそも法廷劇って大抵見応えがあるのですが、ニュールンベルグ裁判は実際にあった出来事であり、主題もナチス政権下に行われた不当殺人・処罰なので、犠牲者の数も異常だし、アメリカとドイツのみならず世界中が深刻に捉えるべき国際問題。被告側の法律家たちが直接手をかけたわけではないものの、彼らの下した判断によって失われた命を思うと、その決断がもたらした余波の深刻さは言わずもがな。

本作で幾度も登場した単語は"責任"。
ヒトラーやゲッベルスなどのナチスの高官たちだけが罪に問われるのではなく、ヤニングたちのような法律家をはじめとする、ナチスによる取り決めに従った者も罪に問われました。彼らが下した判断は決して許されるものではないけれど、ロルフが弁護の際に「危険を顧みずに法(ルール)に従うことも勇敢なのではないか」と言うシーンがあって、(決してそれは言い訳にならないけれど)高官たちの指示に疑問を覚えたとしてもそれでも一軍人、一政治家、一法律家として行使しなければいけないタイミングもあったのだろうなと...。彼らもまた、戦争によって生まれたある種の被害者ですね。
途中、ナチスによって殺害された犠牲者たちの凄惨な映像を受けて、ドイツ人であるロルフ弁護士が「何世代に渡っても言い逃れできない」と話すシーン。歴史的な悲劇や惨劇は、後世の人々にとっても拭えない烙印となるのだという、きついメッセージを読み取りました。でも、ドイツを裁く立場にあるアメリカ側も原爆で日本人の多くを殺害、そしてその被害を受けた日本も他のアジア諸国でひどいことを繰り返していたわけで。責任の転嫁はできても、結局は負の連鎖が続いていくジレンマ。つくづく戦争によってもたらされるものは悲しみしかないなと。

長尺ながら、前述の通りスターたちの迫真の演技に魅入ってしまい、全く飽きなかったです。ちなみにこの年の主演男優賞はマクシミリアン・シェルが獲得、他にもクリフト、ガーランド、トレイシーが演技部門にみんなノミネート。
だからこそ、もう皆さん良かったところをあげたらキリがないのですが、個人的にはナチスによって"断種"させられたユダヤ人男性を演じたモントゴメリー・クリフトが圧巻でした。短いシーンでしたが、あの悲壮感あふれる言葉の発し方、必死な表情...。涙なしには見られない悲痛な訴えは今も頭に焼き付いて離れません。
ジュディ・ガーランドも歌を封印してシリアス演技に挑み、非常にセンシティブな過去を背負って生きてきた女性を見事に演じていてキャリアNo.1の名演といっても過言ではないかなと。

この映画を観たら、戦争を誰が悪いか否かのように端的に白黒つけたり、勝手な偏見や思い込みだけで語ることができなくなるはず。非常にショッキングな、でも心に突き刺さる名作でした。必見です!!
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