猫脳髄

アクエリアスの猫脳髄のレビュー・感想・評価

アクエリアス(1986年製作の映画)
3.4
ジョー・ダマト、ダリオ・アルジェント、ルチオ・フルチ、ランベルト・バーヴァとイタホラ全盛期の巨匠たちの作品に俳優・スタッフとして参加してきたミケーレ・ソアヴィの長編初監督作品。製作はダマト、脚本はダマトと組んでいた巨怪ジョージ・イーストマンことルイジ・モンテフィオーリ(本作ではルー・クーパー名義)が担っている(※1)。

「夜のフクロウ」と題するミュージカルの練習に勤しむ俳優たちがスタジオに閉じ込められてしまい、俳優と入れ替わったフクロウ仮面姿の殺人鬼に一人またひとりと血祭りにあげられるという筋書き。正調ジャッロでありながら、アメリカからのスラッシャー・ムーヴメントのシナリオ形式、人体破壊描写を取り込んだ(※2)。

低予算のクローズド・シチュエーション作品で、筋書きは目新しくないものの、ソアヴィ流の審美性に配慮した造形やショットと、観客サーヴィスというべき荒唐無稽なゴア・シーンが併存しており、描写面での細心が一種独特の雰囲気をつくりあげている(※3)。

犯人役のフクロウ仮面(舞台衣装である)やクライマックスで犠牲者たちを舞台に並べた活人画に羽根が舞い散る一種幻想的なショットがあるかと思えば、どんな怪力なのか犠牲者が真っ二つにちぎれたり、殺人鬼の得物が斧にドリルにチェーンソーと、スラッシャー映画への目配せ満載である。ただ、全般的にやや進行がモタモタしているし、登場人物の行動の不自然さ、見せ場の使い回し、無理な帳尻合わせなど、脚本面があまり吟味されていない(※4)のは残念。

※1 イーストマンはその巨躯をいかして、実はフクロウ仮面の中身も演じている。また、ソアヴィ自身も「ジェームズ・ディーン似」を自称する警官役で出演している(ノンクレジット)
※2 スラッシャー映画の起源のひとつがマリオ・バーヴァ「血みどろの入江」(1970)にあることを鑑みると、アメリカからの逆輸入といえるかもしれないが
※3 シュルレアリスム絵画への造詣が深いソアヴィのこととて、フクロウ仮面はマックス・エルンスト"La Toilette de la mariee (花嫁の衣装)"(1940)が着想元とされる
※4 「高級だから」という理由だけで、ラストまで腕時計に執着するヒロインってのはみたことないわ。あと、まだ「シャワールーム」を使おうとするのって、映画人の病気なんかしら…
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