jun

蝿の王のjunのレビュー・感想・評価

蝿の王(1990年製作の映画)
3.6
イギリス文学の講義で鑑賞。ディストピア文学の代表格。

 雷とか雨が、このシーンの残酷さや臨場感を強調している。少年たちがサイモンの正体に気づいていないのが不思議だと思った。また、無人島にいるのは「イギリスの健全な少年」で、文明を知っているにも関わらず、このようなイケニエなどといった非近代的なことをしてしまうのがとても恐ろしかった。
 残酷で直接殺害するシーンが描かれたもので、しかもサイモンが救われることなくそのまま殺されてしまう。正気を失った野蛮な人々に、きちんと物事を見られる人が殺されてしまうというなんともディストピアだと感じた。書かれたのが米ソ対立期だということもあり、社会の縮図が無人島を舞台に描かれていると思った。

 大人がやってきたことで、少年たちの世界は終わった。ラルフは殺されそうになっていたので安心しただろう。一方でラルフを追っていたジャック達は、元居た大人のいる世界に引き戻されたことで、正気を取り戻したのではないだろうか。自分たちのしてきたことに対して罪悪感を感じて悔いているか、はたまた自分たちが支配的だった世界の終わりを悲しんでいるかだろう。
 ただ、彼らにとってあの結末が救いだったのかは不明である。世界は第三次世界大戦であり、大人の世界も理性より暴力が支配的な時である。結局あの子たちはまたその暴力の世界で生きていかなければならない。本当にあの島は社会の縮図だったと感じる。
 また、あの後適切な裁判などが行われたのかも気になった。実際サイモンやピギーは死んでおり、ジャック達のしたことは殺人である。暴力が支配的な社会ではちゃんと裁かれないのかもしれないが。
jun

jun