Machiko

あぜ道のダンディのMachikoのレビュー・感想・評価

あぜ道のダンディ(2010年製作の映画)
3.0
「川の底からこんにちは」もそうだったけれど、序盤わりとストレスフルなのに、観終わってしまえば、これほど愛おしい映画が他にあるだろうか、ってしみじみ思える良作。

「川の底〜」と同じく、「笑い」ポイントは多々あるんだけれど、それらがただの「ウケる〜」みたいな安っぽい単純な笑いで完結しておらず、そこにプラスアルファとしてある種複雑な感情が注がれているのが良い。例えばお母さんのテープのうさぎのダンスにしても、娘の「安月給」連呼にしても、主人公の癌疑惑で先走って遺影まで作っちゃうとこにしても、彼らは別に誰かを笑わせようとかふざけているとかアホだからだとかいうわけじゃなく、彼らはどこまでも真剣でやっていて、でもその真剣さがはたから見るとどこか「ズッコケて」いて、そこではじめて生まれるのが本作に散りばめられた「笑い」なのだ。まず前提として、「彼らは真面目であり、真剣」なのである。そしてここからが重要なのだが、彼らの真剣さはどこから来るのかと言えば、それは彼らの胸中を満たす、やり切れなさや申し訳なさ、悔しさといった思いだ。前述した複雑な感情とはそれである。だからこそそれを観た私達観客は、笑いながらも、同時に、切なかったり苦しかったりといった情動を己のなかに見つけるし、そこに名前をつけるならば、それは「愛しさ」であったり「哀愁」であったりするのだと思う。

また、さらに翻って言えば、切なさや苦しさを、笑いでくるんだ上でこちらに投げてくれるので、深刻だったり重い映画にならないのも素晴らしい。この映画の登場人物たちはどいつもこいつも不器用で一生懸命で、そしてそんなところが堪らなく愛おしいけれど、だからといってこの映画がありがちな「不器用な人々が織りなす感動ストーリー」みたいなものと一線を画す出来・後味であるのも、それだからこそだ。

うさぎのダンスのシーンとか、「依然として後方」とセルフ実況中継しながら自転車を漕ぐところとか、瞬間最大風速的に愛おしい一コマも多かった。この世に存在するあまねく全ての映画は、作品そのものの印象を、楽しいとかカッコいいとかハラハラドキドキとかそれぞれ一言で表すことができると思うんだけど、この映画は間違いなく「愛おしい」だなあ。

次は「ハラがコレなんで」だ!楽しみ。
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