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台風クラブのEDDIEのレビュー・感想・評価

台風クラブ(1985年製作の映画)
4.4
大人ではない、だけど子どもとも少し違う。
中学生の生と性に悩みながら、不安定で危なっかしい心情をリアルに描く相米慎二監督青春映画の傑作。
台風という非日常をきっかけに彼らは次第に変化を見せる。
クライマックスの三上の選択と衝撃的なシーンは頭から離れない。

今更ながら『台風クラブ』初鑑賞です。
青春映画好きながら、この青春映画の代表作を今だに観たことがありませんでした。

これは素晴らしい映画でしたね。
なんといっても中学生の会話や不安定で意見がコロコロ変わったり、バカだったり、関心ないものには本当にテキトーな受け応えしたり…とにかくリアルなんですよね。

そして、物語の中心に立つ三上恭一(三上祐一)がいい意味でも悪い意味でも目に入ります。
三上は女の子にもモテてクラスの中心的存在。そういういい意味では注目を集める人物といえますが、逆にどこか心が空虚で何を考えているかわからないし、クラスの中心なんだけどなんだか孤立している感じがするんですよね。
そんな彼の不安定さはクライマックスに露呈するわけですが、その間作品を引っ張っていくのが清水健(紅林茂)と高見理恵(工藤夕貴)、大町美智子(大西結花)の3人。

健は美智子に恋心を抱く野球部少年。だけど、好きが空回り暴走してしまうことも。口癖に何の意味があるのかはわかりませんでしたが、とにかく奇妙な男でした。

理恵は三上の彼女。物語の中では台風の中、彼らとは行動が別となる人物。
いつも三上の後ろをついていき、三上の行動に依存するところがありましたが、作品を通してモノの見方が変わった結果、とても成長を見せるキャラクターです。

美智子はちょっと同情してしまうような役柄。三浦友和演じる数学教師の梅宮のとある事柄を許すことができず、それを問いただす一方通行な正義感があります。
だけど、彼女が声をあげてもクラスの誰も賛同することはしません。さらにそこに追い討ちをかけるように健とちょっとしたいざこざが起こります。

ほかにも様々なキャラクターが登場する群像劇的な作品ですが、特に注目すべきは彼ら4人でしょう。

私はなんとなく三上に共感するというか、目が離せませんでした。
決して彼のような選択を取ることもないし、女の子にモテモテだったこともない(言ってて哀しい)んだけど、世間を斜に構えてみてて、中学生という立場ながら身の回りに起きることは仕方ないと受け入れて日々を過ごすようなところがあったと思います。
彼は日頃から哲学的な考え方をするのが癖で、鶴見辰吾演じる兄の敬士ともそんな難しいやり取りをしています。

生きるということ。そこに目標や目的はあるのか。
死とは何か。人間は死という運命が待っているからこそ、生きることに懸命になれるのではないか。
三上は何に絶望したのか。生きる上で彼自身が懸命に生きる目的を見出せませんでした。
電話で先生の梅宮に対して発した言葉が後になってきいてきます。

中学生ってやっぱり難しい年頃なんですよね。必ずしもわからないことを大人に教えてもらっても素直に受け入れることができません。わからないからわからないなりに自分なりの解釈をしても、じゃあどうしたらいいのか、そこでまた迷います。
大人のように割り切って諦めることが簡単にはできません。誰もがとは言えませんが、彼らはこれから大人になり、何か夢や目的をもってそれに向かって突き進んでいくわけです。
諦めるなんて、そんな簡単に割り切るのは難しいはずです。

だけど、なぜ勉強するのか、なぜ学校に行かなければならないのか、日々自分たちの疑問を押し殺して先生や親の言う通りに進むしか道がない。
だから、本作のような台風といった非日常をきっかけに大きく自ら自由な選択を求めるのでしょう。
ハイライトともいえる台風の中を裸同然で踊り歌うシーンはまさに鬱屈とした日々を晴らすかのような彼らの選択といえます。

本当に素晴らしい作品ですね。
犬神家の一族のような例のシーンは衝撃的でしたが、そこに至るまでの人間心理描写が実に丁寧で、長回しだからこそ中学生とはいえそれぞれの距離感や立場の違いがわかるような撮影手法も唸りました。

相米慎二監督のほかの有名作として『セーラー服と機関銃』や『ションベンライダー』、『東京上空いらっしゃいませ』ぐらいは観てみようと思います。

※2021年自宅鑑賞155本目
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