むぶどん

病院坂の首縊りの家のむぶどんのネタバレレビュー・内容・結末

病院坂の首縊りの家(1979年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

シリーズ1作目から面白いなあと思っていたのが、探偵というより観察者のように事件に関わっていく金田一の在り方。調べてみると、市川崑監督は金田一を〈天使〉と、また主演の石坂浩二は〈コロス(古代ギリシア劇にて、俯瞰的な解説役と登場人物の心の代弁者とを兼ねる役割)〉と解釈していたとか。探偵と観察者の二足の草鞋を履き、主役でありながらどこか観客の目線の近くにも居るような金田一。本作はその点を意識的に炙り出していて、本筋の事件と並行して象徴的に描いている。
度重なる殺人に拳を握り締め、犯人に同情してか出自を語り、犯人にとって屈辱そのものである写真の乾板を人知れず……。最終作にして金田一は、物語の中の人物としての自身の側面を強調してくる。結局、観察者の役割から逃れることは出来ないけれど、それまでの積み重ねを踏まえて観るラストシーンは本当に切ない。三之介の繰る人力車で病院坂を下り冬子の後を追って命を絶つ弥生と、坂の上からその最期を見届けたのち坂の向こう側へと独り姿を消す金田一。坂を境→境界として捉えると、金田一の物語的な立ち位置に深く刻まれた孤独が浮かび上がってくるようで……。それで金田一が何かしら救われるわけでもなく、ただその有り様を見せて終わるというのが味わい深くていいですね。
金田一の事ばかり語っていますが、他の要素もよい仕上がり。お馴染みのキャスト陣はもちろん、草刈正雄が今とイメージ違いすぎて面白かったのと、ヒロイン役の桜田淳子は雰囲気のある美人でよかったなあ。オープニングのジャズは新鮮だったし、物哀しいメインテーマはシリーズ中でもかなりのお気に入り。ストーリーはかなり早足だったけど、シリーズの集大成としてよく出来ていたと思う。何より本作のタイトル!おぞましさ全開でたまらん。市川×石坂金田一マラソンもこれにて終了、お疲れさまでした。