「人生経験が豊かなしたたか者。彼との撮影は目も眩むような体験」ーカトリーヌ・ドヌーヴ。
1999年ヴェネツィア国際映画祭正式出品作品。フランス映画界の大女優カトリーヌ・ドヌーヴからの強いラブコールを受け、彼女を主演に迎えた本作。ちなみにカラックスの『Pola X』と同年の公開。
50代で中流階級の人妻エレーヌと、20以上年下の30代の彫刻家ポールの背徳の恋愛。彼女の愛を受け止められなくなり、1人で展示会のためにナポリを訪れ、真っ赤なポルシェの持ち主の男セルジュに出会い、2人で一緒にベルリンに立ち寄り、パリへ戻る旅をする…という物語。
当時56歳のドヌーヴは60年代の『シェルブールの雨傘』や『反撥』『昼顔』の20代の時とは違った大人の円熟した美しさ。
心が満たされておらず、失われてゆく若さへの焦燥感、愛に対する渇望、苦悩、そして悦びを大胆で繊細にドヌーヴが演じる。
と、思えば男2人の驚くほどエロスのないロードムービー。赤いポルシェや朱色のコートが映える。カロリーヌ・シャンプティエの驚く程美しい映像。
ガレルの映画は常に自分の人生と映画の境が曖昧で行ったり来たりしていると感じる。
ガレルを残して亡くなってしまったジャン・ユスターシュやニコなど、『愛の残像』(2008)のように鏡の向こう(あの世側)から見つめているような視線。本作もドヌーヴという大物女優を迎え、ガレルの私的な人生が投影されているように感じる。
愛の誕生と喪失、血を凍るような静けさと、柔らかな夜風の匂いを感じれる本作。
老いていくことの苦しみや、愛する者との別離などの苦しみが、ガレルの目を通して伝わってくる。私は愛する人が先に去った時この世にいる自信がないのだけど、もう考えるのはやめよう。