Jeffrey

忍者武芸帳のJeffreyのレビュー・感想・評価

忍者武芸帳(1967年製作の映画)
2.5
「忍者武芸帳」

冒頭、室町幕府十三代将軍足利義輝の治世。各地に群雄割拠、影丸登場、伏影城攻め、主善、重太郎、地走り、岩魚、御前試合、蔵六と鬼吉、明美、死者たち、螢火、決戦、死、その後。今、明智十人衆と影一族の死闘が始まる…本作は監督、脚本を大島渚が務め、音楽は林光が、担当した一九六七年のATG(ギルド作品大島渚初の映画である)作品で、この度DVDを購入して久々に鑑賞したが面白い。二時間超えのモノクロ静止画アニメーションで、白土三平による日本の長編貸本漫画の映画で、全十七巻である。傑作大河劇画と言われている本作は、原画をモンタージュで再構成した実験的な劇画シネマであり、長編フィルム劇画の本作は、胸に熱い血を持つ人々に見てほしいと大島渚が言っているー本だ。

忍者活劇の劇画に唯物史観革命論を盛り込み、六〇年安保世代の若者に絶大な支持を受けた作者の伝説的な貸本漫画の映画化で、時は忍者ブームの真っ只中と言うこともあったそうで、各社が映画化を企画したが、壮大なスケールのゆえに断念してきたそうだ。そこへ大島は逆転の発想で、これを白土の原画を映画のフレームに転換した上で、モンタージュで再構成し、革新な長編フィルム劇画として完成させたのだ。この実験的な試みは、いかなる素材でも映画にできると言う大島渚の高らかな宣言でもあるとのことである。映画芸術ベストテン第六位になり、キネマ旬報ベストテンではギリギリ第十位となっている。上映時間は一一七分と意外と長めである。


本作は冒頭に、英語でタイトル字幕と説明がなされる。そして歌が始まる。影丸…と。さて、物語は室町幕府十三代将軍足利義輝の治世。各地に群雄割拠、戦いに明けくれる永禄三年、奥州出羽の最上状影城の城主結城光春は家老坂上主膳の謀略のため非業の最期をとげ、光春の一子、結城重い 太郎は辛うじて逃げのびた。数年後、伏影城下に夜な夜な武士を斬る辻斬りが出現し、人々を恐怖のどん底に陥れていた。それこそが父の恨みを晴らそうとして主膳を狙う重太郎の姿であった…と簡単に説明するとこんな感じで、最終的には影一族と明智十人衆との戦闘を写すのだが、冒頭から主人公がなかなか決まらないような演出で始まり、途中で主人公であるはずの人物が当分画面に出て来なかったり、大胆な乱暴描写、脱線する物語、状況を把握するのに結構難しい作品である。しかしながら、独創的なキャラクターは面白い。原画をカメラでとらえると言う手法も大胆不適だが、なかなかこういった映画を体験することができないため、最初はどうしたものかと戸惑った。

大島渚がなぜこの作品を映画化しようと思ったかを考えてみるとやはり明確に階級制度が写し出されていて、その生活との戦いの関係が捉えられているからだと個人的には思う。これを撮影するのだからこの漫画を全巻読破している事だろうし。それにしてもいちど出版社が変わると言う事があったにもかかわらず、原稿が全てあったのは凄いなと思ったが、どうやらー部欠損していた事が、池袋で作者と待ち合わせした大島渚が言っていたような気がした。今思えばアニメーションの吹き替えに大島渚組の役者が振り分けられているが、キャラクターと本人たちの顔が似ているようにも感じる。本作は白と黒が非常に強調されていて、フィルムもイーストマンのプラスXを使って白を強調していたことがわかる。

それにしても二万コマに及ぶ原画の半分近くを撮影すると言うのはかなり苦労する話だが、そこら辺は一切の妥協なしに頑張ったんだろう。撮影の技術的な内容なども非常に興味深い作品である。もともと本作はもう少し長い再編集版があるようだ。それにしてもこの作品はカット割がかなり多い。大島渚の作品連続で見ると様々なことに気づくが、このカット割の多さは「白昼の通り魔」と互角レベルである。といっても「忍者武芸帳」の場合は原画をコマ撮りして撮る分、カット割が多くなるのは当たり前だが、長廻しを強調した「日本春歌考」とはまた違うテイストになっている。この監督は撮影処理方法を自分なりに考え処理しているので、そこら辺非常にうまいなと思う。

この作品は結構グロテスクで、ネタバレになるが言ってしまうと、主人公の影丸と言うキャラクターの首が斬られる場面やその首だけをとらえた画が映し出されたりする。そして物語は別空間へと提示され、ーつの事件を語り終えた途端に、一方の事柄に物語は言及していくスタイルである。そうする中、分身の術などもあったりする。忍者アニメといえば「NARUTO」が有名だろうが、この作品もそういった忍者アニメが好きな方には、はまるかもわからない。実際漫画もあるようだが漫画を見るのもいいだろう。それから他の作品よりかは薄めだが、部落差別や特定民族差別にやんわりと言及してるような場面もある。それにしても首が撥ねられるシーンを言うと、大島作品には多くの首にまつわるエピソードがある。朝鮮人の死刑を描いた「絞死刑」や、「御法度」でも首が飛ぶ場面があった。ちなみにナルトのキャラクターで鳥獣戯画を技(忍術)として使うキャラクターが個人的にはお気に入りだった。鳥獣戯画とは日本最古の漫画の事ある。

かくして、この作品は大学生を中心に大ヒットして、通常アートシアターギルドは上映ーヵ月のみだが、三ヶ月以上も伸びたらしい。これで大島渚の創造社とATG提携のきっかけが広がった記念すべき映画であり、その年にはゴダールの「気狂いピエロ」やエイゼンシュテインの「戦艦ポチョムキン」なども配給してATGを確立していった。ちなみに大島渚は映画完成後に、過労で入院してしまったそうである。とりあえずカメラで漫画を解読していく観点からものすごい作品とは思うが、正直目が疲れてしまう。面白い面白くないと言うのは各個人の主観であるが、この映画的には色々と画期的だなとは感じてしまう。
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