三隅炎雄

博徒斬り込み隊の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

博徒斬り込み隊(1971年製作の映画)
4.7
鶴田浩二主演の異色暴力団もの。出所すると世の中すっかり変わっていてというよくある出だしなのだが、他と違うのは任侠道が虚しくなった主人公が、魂の抜け殻のような顔に自殺念慮を透し見せ、それも一人で死ぬのは寂しいのか、出来るだけ多くの同業者を道連れにして盛大な殺戮自殺ショーをやりたい、どうもそう考えているようなところだ。
そのために二つの暴力組織の対立を煽る。激化する抗争の中もろともに死んでやろうという、この死神に憑かれた鶴田の密かな自殺計画に気づくこともなく、捨て駒にされて死んでいく構成員たちが哀れだ。

一方、暴力団撲滅を任されている警視正の丹波哲郎は世の中からやくざを一切消してしまいたい、あらゆる汚い手を使ってでも根絶やしにしてやりたいと考えている。鶴田と丹波、双子の兄弟のようなこの二人の男の強い妄念の鍔迫り合いに飲み込まれるようにして、映画は徐々に抗争劇のリアリズムから離れて行く。組葬中の本堂の狭い空間で、三組織が凄まじい銃撃戦を繰り広げあっという間に死屍累々、血の海になっていくくだりは不条理などす黒い笑いが渦巻いて、その描写の異常に言葉を失ってしまう。

観念的というか文学的というか、かなり特異な暴力団映画で、佐藤監督はTVの『キイハンター』で不条理劇的なコメディをいくつかやっていたりしたから、そっち方面の感覚が発揮されたやくざ映画と言っていいだろう。
三隅炎雄

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