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バベットの晩餐会のAntaressのレビュー・感想・評価

バベットの晩餐会(1987年製作の映画)
4.8
【ショコラ】と【八月の鯨】と雰囲気が似ているお話。

午前十時の映画祭で【ショコラ】と組み合わせたのはナイスチョイスだと思う。本作も【ショコラ】もほんわりと幸せな気持ちになれる良作。

とは言え【ショコラ】はファンタジー色が強め。対して本作はコメディとシリアスが絶妙にコラボしたお話。

そもそも自分で立ち上げた宗教の牧師になった男が娘二人を信仰の広告塔にするってかなりの毒親。姉妹二人共に心寄せ合う男性が現れたのに『娘達は私の両腕なのだ』とかほざいて結婚や歌手への道を妨げるとかヤバい。
今で言う宗教2世ってやつですよ。

その牧師である父親が亡くなり年老いた姉妹二人が牧師館に残った。(海辺の街の老姉妹って【八月の鯨】みたい)その為か小さな村の中で少しずつ村人達の間の諍いも生まれていて…

そこにパリのコミューン革命から逃れた女性バベットがやって来る。この後の件は【ショコラ】【メリー・ポピンズ】【バグダッド・カフェ】と似ている。
と、書いているうちに自分はこの手の物語がツボなのだと気づいた次第。

1万フラン使い果たす大盤振る舞いの晩餐に初めこそ「味合わない様にしよう」と示し合わせてた村人達がだんだん美食と美酒に酔いしれて行く様子がこの映画の醍醐味。

ちっこいお婆ちゃんが水を口にした瞬間ちょっと顔をしかめた後ワインをがぶ飲みしてご満悦になるの可愛い。

信仰心から贅沢を敵と考えていた人達の心がほぐれて行く過程が素敵。

バベットを村へ寄越したのはかつて老姉妹の妹をパリへ呼んで歌手にしようとしていたパパンだった。同じく姉の恋人だったローレンスが牧師の生誕百年記念の晩餐会に出席することに。

姉妹の昔の恋人はそれぞれ長い間彼女達を想って暮らしていたと言うこと。

このローレンスが晩餐会に出席したことがまたスパイスとして良く効いている。初めての超豪華な晩餐に戸惑う村人達。反して食事やワインのうんちくを述べるローレンス。

何だか良く分からないけどめっちゃ美味しいし『ローレンス将軍が賞賛する程凄いお食事なのね』的な村人達。

清貧を美徳として生きて来た人達の気持ちが解け、やがて歪み合っていた人達も和解する。
昔、不倫カップルだったお爺ちゃん&お婆ちゃんのキスシーンにはホロリとさせられた。

ローレンスは「ずっと離れていても心はいつも貴女と共にあった。これからも…」と言葉を残し帰って行ったけどそれは敬虔なクリスチャンのマティーネにとっては十分な幸せなのかな?私なら耐えられないけど…てか、自分だったら若い時に父親に反対された時点で駆け落ちするわ。

そして1万フラン使い果たしたバベットも自分には考えられない。でも彼女の幸せはパリで夫と子供と共に暮らしていた頃にあったのでもうそこへは戻るつもりは無かったと言うことなのですね。

だからこそ敢えて金銭的にもパリへ帰る余裕を無くし、姉妹の元に残った。
バベットにとって牧師館で暮らすことは出家したのと同じ。つまりは尼僧になって夫と子どもを偲んで生きる道を選んだ。
それは牧師館の老姉妹と似た生き方。

バベットが村の人々へ晩餐を振る舞ったのは彼らへの感謝と共に一度は過去の栄光を披露したかったから。
これからもこの村で過ごすことへの決意表明的なことなんでしょう。

バベットの服が裕福な貴族の館に仕える侍女のものにも修道女のものにも似ているのも暗喩的。

シリアスなベースにコメディと愛を散りばめた美しい映画です。
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