百合

シークレット・サンシャインの百合のレビュー・感想・評価

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宗教的ハイにまかせて刑務所へ向かうまでは本当に苦痛な作品。独特の辛抱強さが求められる。そもそも子どもを抱えて夫を事故で亡くしている時点で悲劇的なのだが母親の愚かさだけで子どもを殺す展開は必要なのか?という根本に関わるストレスを抱えさせられたまま観客は作品に付き合うことになる。このストレスが最高潮に達するのが母親がキリスト教に帰依したシークエンスであり、執拗に挟まれる信者目線の礼拝のシーンには強いいらだちをおぼえることになる。一ミリも共感できない展開での主観ショットはこんなにつらいのかということも思うが、このような強いストレスを与えられたあとの犯人との面会のシーンのカタルシスを強める演出であったことに気づく。宗教的高揚のまま犯人を「許してやろう」という主人公の高慢な目論見は犯人に先手を打たれ、彼女の再生は頓挫してしまう。このガラス越しの面会のシーンは圧巻で、つい先程までの主人公同様に満ち足りた顔をした犯人と大きな喪失感に耐えるような主人公の対比が見事である。
信仰で思考停止することさえ奪われた彼女は逆に神に逆らうような行動ばかりをとるようになるのだが、安易な罰も破滅も訪れないのが誠実だという感じがした。死ぬこともできず、目に見えない救いには気づけず、許すこともできないというのが掛け値なしの世界であるように思う。
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