クローネンバーグはスパイダーを最後に観るのをやめてしまったのだが、気付いたら結構溜まってたのでそろそろと思い、本作から復帰。
ヴィゴ・モーテンセンとマリア・ベロ。
いちいち2人のベッドシーンが長い(けどオッケー)。不穏なシーンでも音楽がややハートウォーミングなのがちょいちょい気になるが、それが家庭に割って入る暴力の狂気なのか。多少の人体破壊描写はある。クローネンバーグのトランスフォーム的なコンセプトがどこで出るかと思ったらトムの二面性で来た。
全体的にクローネンバーグらしくないのである。それが嫌という訳ではない。確かにトーンやカラーなどそうなのだが。
ネタバレ——-
階段でマリア・ベロと絡むシーンは、言葉でなく力で取り戻そうとする動物的なトムの二面性が怖く、こんなシーンわざわざ撮るのクローネンバーグだよな。しかも丁寧にその時の背中のアザをじっくりと見せるシーンまで追加する。息子のショットガンを取り上げる時も野獣のような顔である。
だが、二面性が野獣、という訳でなくて、どちらかというと近接戦闘得意なCQBマシーンなのだ。ジョン・ウィックに近い。でもそれがエンターテイメントになり過ぎない立ち回りをさせた所は上手いと思った。それやって音楽差し替えたら他の映画になりかねない。
最後までよく分からなかったのは二重人格なのか、過去を捨てた男なのか。前者が強ければクローネンバーグ臭が高まる訳だが、はっきりしなかった。
どちらにせよ、子供達は受け入れてくれた訳だ。でも、カミさんはどうか?
一番可哀想なのは息子かもな…。
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エド・ハリスすごくいい。
田舎に来た都会の暴力の塊感が手下も含めてにじみ出ていた。
ウイリアム・ハートは出番少なく、役作り丁寧にしたがやはり育ちのいい感じのあの顔は隠せない。
息子の高校の彼女といじめっ子がグットルッキングだった。
クローネンバーグ特有の日常崩壊と我々から見えないけど背中合わせで存在する世界。
でもこの人の映画でスカッとするとは思わなかった。それが一番意外。
それと他の方のコメント欄で本作について色々書いていたらコーエン的なリアルで空虚なバイオレンス感なんだなあ、と再認識。そこもまた新しいクローネンバーグの一面を見た感じで新鮮。