スポック

火宅の人のスポックのレビュー・感想・評価

火宅の人(1986年製作の映画)
4.5
生物は生まれながら雄と雌が惹かれ合うという避けられない性。

主人公はたまたま男であったが、女である主人公の母親は男の主人公と同様に、如何なる理由があったとしても若い年下の雄の大学生に恋をして子供も主人も家庭も捨てて男女の性の法則に惹かれ合い従った。
女である主人公の母親は人としては男の主人公よりもっと非道な行いである、自ら産んだ子供達ばかりでなく火宅すら捨て去って、若い歳下の大学生との雄と雌が結ばれる不倫の道を幸せの絶頂の笑顔で選んだ。

男である主人公が『人間としてはクズ』と非難されるなら、女である主人公の母親も男の主人公と同様に『人間としてはクズ』との酷評になるのであろう。でも両者ともに人生の幸せを享受した満ち足りた笑顔で行動を起こしている。相手の女性たちも妻子のある男性と知りながら情念を燃やして自ら選択して愛し合うのである。
結局は先進国のモラルと男女同権の風潮で計れば、男も女もこの胸が張り裂けそうに切なくて恋しい凄い情熱が抑えきれない男と女の自然な恋愛行動も『人間としてはクズ』との酷評に追いやられる。
生物の一員であるのに人間だけは、自らが作ったモラルによって、本能で惹かれ合う燃え盛るような幸せな恋愛感情を自由奔放に実現できない息苦しい生き方を作った。

でもその一夫一妻制は悪い制度では無い。
多くの他の生き物たちが選択している一頭の最強の雄が多くの雌に望まれて選ばれ遺伝子を残す弱い雄を排除したハーレム制度より、弱く魅力のない雄も雌も子孫を残せるチャンスが与えられる高度な制度なのかもしれない。