かわたん

噂の娘のかわたんのネタバレレビュー・内容・結末

噂の娘(1935年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

面白い。個人的に成瀬巳喜男の映画は比較的、見えづらさを感じることが多い。というのも、場面がテンポよく切り替わってしまうし、あらゆる技法が折衷的につぎ込まれているからである。小津や溝口を見てるときのように、ある一定のスタイルを終始して追っていくような見方が難しい(あるいは、自分が成瀬のスタイルを未だよく掴めていないのか?)

セリフのテンポが小津に近いのは誰もが感じることではないかなと思う。ただ人物の写しかたは全く異なる。人物のショットにカットした後のグルーヴ感は独特なものに感じる。自分が読んだ成瀬の本では、カット直後の「振り向き」の動作が頻繁に見られると書かれてあったがそれだけでは無いような感じがする。成瀬は時折、カット直後、まだ完成されていない画が映されることが多い。それは振り向く直前の準備段階での画もそうだし、他にも人物の位置が右端にあって「なんか不安定だな~」と感じていたら、人物が手前へ動いてバランスが整えられたり、あるいは、その余白に別の人物が入ってきたりといった演出をよく見る。だからパツッ・パツッみたいなカットのなかで時々、ウーワッ・ウーワッとかウワッー・ウワッーみたいなカットが入るのでGroovyで面白い。

まぁ、色んな動きの果てに各ショットは人物たちを中心で捉えた安定した構図になることが多いわけだが、その中でも常に不安定な構図だったショットがあってそれはどこかというと、序盤に邦江が樽から酒を注ぐシーン。左端に邦江が捉えられた(cu)で、父親を睨むような目線になっている。動きつつも安定した成瀬映画の中でこのショットは浮いている。そして、このショットが最終的な伏線に繋がるわけなのだが…。

最終的に、灘屋は父親の何らかの不正によって廃業する雰囲気になったが、父親の不正を告発したのは誰なのか。おそらく、その人物が邦枝であることが、先述した邦江の(cu)と、後半のあるモンタージュによって特定できるだろう。そのモンタージュとは船に乗る邦江が、妹と健吉が橋に居る様子(この人物の高低感も良かった)を目撃してしまう場面でかかるオーバーラップ・モンタージュであり、悲しむ邦枝の(cu)→水→酒を注ぐという流れになっている。そして、そのあと客から「あのサワーでいいんですよ」と言われたあとの、「すいません、どうもうっかりして」と邦枝が返答したあとの俯く暗い表情が一瞬写る。

以上のことより、邦江は最初の(cu)の段階で店の不正に気づき、物語の終盤で結婚にまつわる妹や父・叔父の裏切りを知ったことで、灘屋の不正を告発したということが読める。そう考えると、父が連行される際の、怒濤の野次馬モンタージュのあとの、灘屋一家のやりとりも様々な含みをもって迎え入れられることだろう。

『噂の娘』に関しては、他にも縦の構図からの切り返しとか、フェイド・インの利用、モガと淑女の対立、新しいものと古いものの対立といったイデオロギー的要素など、様々なことが気になった。また、別の機会に見返したいな。
かわたん

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