青山

天井桟敷の人々の青山のレビュー・感想・評価

天井桟敷の人々(1945年製作の映画)
4.3

無言劇の役者バチストはパリの街で出会った女性ガランスに恋をする。しかし彼は劇団長の娘ナタリーと付き合っていた。一方、役者のフレデリック、悪党のピエール、モントレー伯爵もガランスに惹かれていて......。


1945年、ナチスドイツの占領下にあったフランスで製作され、「詩的リアリズム」というムーブメントの集大成にして掉尾を飾る作品......だそうです(本で見た)。
そんな、占領下にこんだけのモンを作ったんかフランス......というところにも圧倒されますが、それを置いといてもとんでもなく美しくて悲しいけど優しい映画で、結構ところどころ泣きそうになりながら3時間以上あるのに飽きずに観れちゃいました。

パントマイムによる無言劇を上演する劇場が主な舞台となる本作。
主人公バチストの初登場からしてスリの冤罪を着せられそうになったヒロインのガランスをパントマイムによる無言の"証言"で救うというシーン。父親の口上では「木偶の坊」として紹介されていた滑稽な格好で虚な目をした彼が、その技巧とユーモアでガランスを救う様がカッコ良すぎて観衆たちの笑い声とは裏腹に私は泣きそうになってしまったし、動きだけで泣きそうになるものなんだなと驚いたりもしました。
また、第一部の後半の、本作のジャケ写とかでもよく使われてる白塗りのバチストが出てくる劇のシーンでは、彼が首を吊るための縄で少女が縄跳びをしたり女性が洗濯を干したりするところも、バチストのメンタルがヤバいのを表すシーンでありつつ死を遊びや生活に変換する優しさに泣きそうになった。

ストーリーはあらすじのところに書いた男女6人の恋物語なんですが、全員めちゃくちゃキャラが立ってるのと、バチストとガランス、ナタリーが三角関係で他の男たちも全員ガランスが好きというシンプルな構図のためたいへん分かりやすくメロドラマを楽しめました。
個人的には女たらしの俳優フレデリックがなんか面白くて出てくるたびちょっと笑っちゃったのと、どうしてもいわゆる負けヒロイン的キャラに弱いのでナタリーを推しながら見てた。しかしバチストがガランスを愛しているのを知りながら一途にバチストを思うナタリーの確信犯みたいなところが1番怖い気もするな。しかし「好き」と「愛してる」の違いのやり取りをバチスト-ナタリー間とガランス-バチスト間で反復する残酷さとか凄え良かった......。
まぁ冷静に考えたら主人公バチストをはじめみんな結構身勝手で「いい大人が何やってんだよ子供が可哀想だろ」とか思っちゃいますが、作品全体を包む狂騒感や台詞の良さにある種誤魔化されるような形でそんな身勝手な恋をする彼らに感情移入して観てしまいます。そう、台詞がいいんですよね。詩的で人生論みたいなところもあるんだけど変に浮いたりせずにちゃんと会話の中に組み込まれているのがすごいっすね。

あとは、作品全体を通して光と影だったり陽気さと悲しみだったりが同居して「これぞ人生!」みたいなノリなのも好みなんですよねぇ......。
犯罪大通りに始まり犯罪大通りに終わる冒頭と結末が対になった構成とか、直接的にはそんなにフォーカスされない「天井桟敷の人々」というタイトルが俗っぽいけど強烈な熱量のある作品全体を表しているようなのも素敵で、悲しいお話のはずなのに観終わった後なんだか元気が出てくるような良い余韻が残る素敵な映画でした。
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