トメさん

あらしのよるにのトメさんのレビュー・感想・評価

あらしのよるに(2005年製作の映画)
4.3
出会ってよかったのか、よくなかったのか?

こんな思いをするなら出会わなければよかったのか?

生きていれば、互いのいやなところも見えてくるし、嫌いなときだって出てくる。

でも、出会わなければよかったのか。


なんか、人ってなんだかんだいって、終わりよければすべてよしみたいな考えかたがあるし、そのおかげで生きている(生き長らえられる)。でも、なんか、その間をすっとばして生きている気がする。

それは、生きている(生きながらえるの意味ではなく)のか?


ガブとメイは群れを追われ、死にかけて、どこにいっても偏見の目で見られても、はっきりと「出会えてよかった」といった。それをいうことに対してもそれぞれ葛藤を経験しながらも、そんな美談でなく「出会えてよかった」といったのだ。

これを言い換えると「生きていてよかった」ということ。ここでいう、「生きる」は「生きながらえる」の意味ではない。


普通の生物は、「生きること」より「死なないこと」を本能的にプログラミングされている気がする。我々は人間だ。劇中では、そのプログラムを超えて、狼でも羊でも「生きること」を選んだ。僕ら人間だってそのプログラムを超えれるはず。




もっともいいことは、これだけ。

でも、言い足りないので、ここからはダラダタ書きます。


この映画で、もう一つの主題は、「異種に対する壁」。生物種、性別、人種、年齢差、土地の違い、さらには性格や価値観の違いまで、いろんな「異種に対する壁」に対する投げかけができる。

この壁に対して、我々人を含んだ多くの生物は恐れ慄く。それは種の保存という意味での「死」への恐れに近い。この生物全般の恐れのせいで、我々、人間は上に書いたような本当な意味での「生きる」を放棄してしまっている。本当は、いい人で、一生涯のパートナーや友達、「生きる」意味を与えてくれるのに、その門を閉じてしまっている。

この物語のきっかけ(あらすじ)で重要なことは、(1)お互いが見えなかったこと(2)お互いひとりぼっちだったこと。(1)は、つまり偏見がなかったこと(2)は、偏見をもった周囲のものがいなかったことということになる。これらのポイントだけで、「生きていてよかった」という確率はぐっとあがる。とくに周囲のものは、知りもしないこと (知らないからこそ)恐れる。それは、結局その人のためというより、自分自身の「死」が怖いから。劇中に出てくる周囲のものがそれを恐ろしく表している。狼たちは反逆者たちがでることへの恐ろしいわけだし、羊たちは、メイのことを心配しているよるで、川に飛び込んだときにだれも助けようとはしなかったし、そのあとも一切でてこなかった。それは、そういうことを表したかっただなと思った。いつだって大衆、集団は自分勝手なのだ。

でも、この映画をみて感動した人は、「出会えてよかった」なんていう、他の生物では感じられるかどうかわからないことが、感じられるということ。この感性が、「異種に対する壁」を超えるきっかけになるはず。狼には無理だけど、人間はお肉を食べなくても科学の力などで生きていけるし、この「異種の壁」を超えられる唯一の生物かもしれない。この映画をみて、ガブとメイが男の子どうしじゃなければ、ラブストーリーとして、すごいいいのになと思っている自分がいて、はっとした。まだまだ、僕の中にも性差に対する「異種への壁」があるんだとおもった。いかんいかん。



ぐっときたポイントの一つに、ガブがメイを騙そうとしたことを悔いて本当のことをいうことにした川のシーンで、そのきっかけを与えてくれたのが、ガブが必死になってメイを助けようとしたことだ。そこが、メイに助けてもらったからではなく、自分が助けたいととっさに思ったから、そして自分は心のそこからメイのことを想っていると気づいたからというのが、たまらない。そのシーンが、最後の方ででてくる回想シーンで何回もでてくるのが、それを物語っているし、これまたたまらなかった。


全体的に、話は重いのに、ライトな作品に描いている。人によっては、物足りなさ、感動への訴えかけの少なさを感じるかもしれない。例えば、ガブやメイはもっと感情を込めて演技をしてもいい気がすると思うかもしれない。それに、なんだこの安っぽいラストと思うかもしれない。でも、製作者がそのつもりがないかもしれないけど、個人的には、こういう感じにしないと子供に対しては、重すぎるから、この方がいいと思った。やっぱりこの映画は子供が子供の間にみて、そして何回もみて、偏見という「異種への壁」が形成されるまえに「生きる」を感じてほしい。やっぱりホタルの墓は何回も見れないじゃない。だから、大人には、物足りなさがあるかもだし、都合がいいと感じられるかもしれないけど、それをそういうものだとおもってみるとやっぱりすごいいい映画だ。


ながなが書いたけど、本当に書き足りない。名言いっぱい。ぜひみてほしい。このレビューを最後まで読んでくれた人は、絶対にみてほしい。これを読めたなら絶対に損はしません。
トメさん

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